■雰囲気的な5つの詞:雪■

01.降り積もる過去に似た(イザアス)
02.淋しいなんて言えない(島準)
03.まるで惜別のように(ハルアベ)
04.花びらはやがて消えて(利準)
05.もう会えないのなら、(アスラン)



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01.降り積もる過去に似た


雪は舞う。
誰に指示されたわけでなく、ただ静かに舞い続ける。
ひたすらに降り積もるそれは、見慣れた景色を白く染めて上げていく。

まるで、贖罪のように。




「アスラン」

名前を呼ばれた人物は独りその場所に佇んでいた。
すべてを拒絶するような、その姿に誰も近付けずにいた。
呼び掛けたただ一人を除いては。

「アスラン」

返事の無い相手にもう一度呼び掛ける。
だが、返事は返ってこない。

「返事ぐらいしたらどうだ?」

イザークは彼に近付き、背後から抱きしめた。
揶揄うつもりが抱きしめた身体は思いの外冷たく、長い時間そこに居たことがわかる。

「お前、いつからここにいたんだ?」

眉間に皺を寄せ問いながら、自分が身につけていたマフラーを巻いてやる。
イザークには、アスランがこんな場所にいる理由がわからなかった。
戦いは終わり自分たちは勝利を手にした。
それで充分ではないのだろうか。

「おい、聞いてっ…」
「イザーク」

全く返事をしないアスランにイザークが文句を言おうとすると、
それを遮るようにアスランは言葉を紡いだ。

「雪はすべてを覆い隠してしまうんだな」
「何のことだ?」

脈絡のない言葉にイザークはアスランの横顔を眺めるが、
彼はずっと前を向いたままである。
イザークも仕方なく同じ場所に視線を向けた。

「さっきまで、真っ赤に染まっていたのに、今では真っ白だ」

まるで、リセットされたみたいに。

そう呟く姿は、この戦いを率いて来た者としては、
あまりに弱々しく、不相応だった。


「それでいいだろう」

リセットされるならそれでいいのではないか。
血生臭い戦いの跡を綺麗に消し去ってくれるのであれば、喜ぶべきだろう。
誰しもそんな場所を見たくはない。

「それじゃ…」

戦いの中で死んでいった敵や味方はどうすればいい?
そんな簡単に忘れてしまっていいのか?

アスランが口にすることはなかったが、
言いたいことはイザークもよくわかっていた。

「そういう意味じゃない」

誰も忘れてしまえばいいなどと思わない。
忘れるべきではないのだ。

「白く染まって、新しく生まれ変われるのなら、それは素晴らしいことだ。
過去を振り返るだけで、終わっては悲しすぎる」

だから、俺たちが覚えていればいいんだ。
降り積もった雪の白さと、紅く染まっていた過去のことを。

「人は前を向いて歩くものだ。だからこそ、俺たちが戦う意味がある」

そうでなければ、虚し過ぎる。

「イザーク・・・」




贖罪の雪は、まだ降り止まない。
過去を振り返らないためにも、今を生きるためにも。
紅く染まった大地を白く染め上げるまでは。











02.淋しいなんて言えない


もう少しで冬になる。
冬が終われば、春がくる。
そしたら、貴方はいなくなってしまうんですか?





「ずっと春が来なければいいのに」

二人で部屋で寛いでいたときに、準太が小さく呟いた。

「…何で?」

何の気無しに理由を聞いてしまったことを後悔したのは、
準太の表情を見てからだった。
勘がいいのも困る。
その表情で何を言わんとしているかすぐにわかってしまった。
だから、わざとふざけてごまかした。

「あれ〜?準太くん、俺と離れるのがそんなに淋しい?」

揶揄うように、おどけて準太を覗き込む。
普段ならふざけるなと、淋しくなどないと、睨み返してくるはずだった。
だが、今は違う。
頷きそうになるのを必死に堪えて、下唇を噛み締める準太がいた。
慎吾は何も続けることができず、覗き込んだ体勢を元に戻した。


淋しいなんて言えるはずがなかった。
言ってしまったら、貴方を困らせてしまう。
だから、せめて貴方の前ではいい子でいたかったのに。

「淋しくなんかありませんよ」

精一杯の強がりで、貴方に笑顔を向ける。

「冬が好きなだけです」

ちゃんと笑えているか不安だけど、これが今俺に出来る最高の笑顔。

「…バカだな」

準太の笑顔に、慎吾は苦笑するしかなかった。
淋しいのはお前だけではないのに。
それをちゃんと分かって欲しかった。

「俺も冬は大好きだな」

準太を包み込むように抱きしめながら、首もとに顔を埋めた。

「準太とベタベタできるからな」

と耳元で囁くように言えば、準太は頬を染め背中を慎吾に預けた。


たぶん、気付かれているんだろう。
彼の態度を見ながら、そう感じた。
貴方はいつもそうだ。
勘がいいからすぐにこっちの気持ちに気付いて、
俺が無理しないように、知らない振りをして、助け船を出してくれる。
今も、そう。


「…勝てない」


小さく呟くと慎吾は、当たり前だと、声をあげて笑った。



もう少し、もう少し、このままで。










03.まるで惜別のように


朱く色付いた葉が散るのは早く、いつの間にか冬になっていた。
3年は引退を迎え、別れを惜しむように先輩を囲う同い年の姿を、
タカヤは少し離れた場所から眺めていた。
もうそんな時期なんだなと、改めて感じる。
このチームに入ってから二度目の冬が来た。

先輩を送る二度目の冬。
貴方と迎える二度目の冬。


「タカヤーっ」

向こうで自分を呼ぶ声が聞こえる。
その声に立ち上がろうとすると、後ろから名前を呼ばれた。

「タカヤ」

この2年間、一番近くで聞き続けてきた声だ。

「お疲れ様でした」

一応、形だけは貴方を送り出そうとした。
それが、貴方への最低限の礼儀だから。

「お前、高校どこに行くんだ?」
「まだ、決めてません」
「ふーん」

自分から聞いてきたのに、興味なさそうな返事。
相変わらず、自分勝手な人だ。

「呼んでますよ」

向こうで、モトキと呼ぶ声がする。
だが、モトキは、ほっとけばいい、とタカヤの前に立ったままだった。
早く行けばいいのに、と内心思っても声に出すことはできなかった。
普段なら気にせず言うはずなのに、今日は言うのが憚られた。
タカヤ自身もそんな自分に少し驚きながらも、今日が最後だからだと言い聞かせた。

「俺と同じとこ、来いよ」

真剣な顔で放たれたその言葉を、欝陶しいと思う。
だが、心の片隅で、嬉しいと思う自分もいた。

「考えておきます」

行く予定は全くなかった。
モトキが行く予定の武蔵野第一は、モトキが行くとなった時点で候補から外れていた。
そんなこと一言も口には出さないが。

「…野球だけは、続けろよ」

思わぬ言葉に、タカヤは一瞬言葉を失った。
まさか、この人からこんな言葉が出てくるとは。
まるで、自分の考えが読まれているようだった。

「わかってますよ」

苦笑しながら、タカヤは言った。
野球をとってしまったら、一生貴方と関わることはないだろう。
たぶん、否、絶対に。

「本当に、行かなくていいんですか?」

何度も聞こえるモトキの名を呼ぶ声に、タカヤはもう一度彼に聞いた。
モトキもその声に気付いていたのか、先程は無視すればいいと言っていたものの、
やはり気になるようだった。

「もう少しなら、大丈夫だろ」
「その前に、雪がきつくなりますよ」
「なぁ、タカヤ」
「何ですか?」
「・・・何でもない」
「ほら、あっち」

先輩たちが集まるほうを指差しながら、タカヤは早く行けと言う。
だが、モトキは逆にもう少しと何故かここに居ることを望んだ。

「じゃ、俺が行きますよ」
「おい、待てよっ!」

モトキを置き去りにして、タカヤは皆のもとへと向かおうとする。
慌てて、モトキもその後を追った。



降り積もった雪に足を取られ、自然とゆっくりになる歩みは、
まるでそこから離れるのを拒んでいるようにも見えた。

二人でいることを、
この想い出の場所を、
その隣を離れてしまうことを
独りになるということを。










04.花びらはやがて消えて


『儚いものほど美しい』

とは、上手く言ったものだ。
利央は、つい最近聞いた言葉について考えていた。

「準さん、雪の花って知ってる?」

既に練習着に着替えた利央は、部室の窓から空を見上て言った。
空は今にも雪が降ってきそうなほど曇っている。

「雪の華って…、歌の?」

準太は、アンダーから顔を出しながら答えた。
季節的にパッと思い浮かんだものがこの歌だったんだろう。

「違うよ。歌じゃなくて、こっちの」

準太の答えに、利央は空を指しながら言った。
準太は利央が何を言っているのか解らず、
首を傾げて利央の指差す先を見つめる。

「何のことだよ」

利央だけが知っているということが不満なのか、
準太は少し不機嫌になっているようだ。

「今降ってきてるやつ」
「はぁ?」
「ほら」

笑顔で利央が窓を開けると、冷たい風が吹き込んでくる。
寒い!と堪らず準太は上着を着た。
窓の外を見ると、雪が降り出したようだった。

「雪がどうしたんだ?」
「雪の花って、雪の結晶のことなんっすよ」
「ふーん」

準太はあまり興味が持てなかったのか、
適当に返事を返しながら、空を眺めていた。


利央はそんな準太を隣でじっと見つめていた。
雪の舞う姿は美しい。
だが、地面に落ちてしまった雪は小さな染みをつくるだけ。
だからこそ美しいのかもしれないが、とても切なくなってしまう。
なんとなく、それが準太と重なってしまった。

「おっす」

暫くそうしていると、河合たち3年が部室に入ってきた。

「ちわっす」

その声を聴いた瞬間、花が咲いたように笑顔で挨拶する準太がいる。
そんな準太を見ながら、利央はこの花が散ってしまわないことを願った。









それから、3年後。


「ありがとうございましたっ!」


雪の花が降る前に、利央の花は散ってしまった。
目の前で涙を堪えながら、必死に笑顔を作っている準太を見つめながら、
少し神様を恨んだ。
それでも・・・。




神様、お願いだから早くあの人に、もう一度花びらを・・・。










05.もう会えないのなら、


ザフトを離れて、数ヶ月がたった。
イザークに別れも言わずに飛び出したあの頃が、
今では遠い日のことのように感じる。


「アレックス」

呼ばれる自分の“今”の名前に適当に返事を返しながら、
ふ、と窓の外を眺めた。

オーブでは、季節は秋を過ぎ、本格的に冬になろうとしている。
色付いた葉も、風に吹かれ地面に散り、枝だけを残す木々が寒そうに立っていた。
もう少しすれば、ここから見える景色は、真っ白な銀世界へと変わるのだろう。

いつか、君と見たあの日のように。



「今日の会談のことなんだが・・・」

目の前で行われる会議。
アスランは、その内容に耳を傾けながら、じっと、窓の外を眺めていた。
自分の役割は、カガリを護衛することであって、
そこに割り込んでオーブの行政に関わることではない。
だが、この場所に居て何も出来ないということが歯痒いのも、また事実だった。


先程から降り始めた雪は、弱まることもなく降り続けている。
この調子なら、夜には積もっているだろう。


(ザフトも、今は冬だよな・・・)

何となく思いついて、少し淋しくなった。
彼もまた、人工ではあるが、降り止むことのない雪を見ているのだろうか。
それとも、そんな景色を見る余裕もなく働いているのだろうか。
おそらく後者だろうなと、アスランは少し笑った。

何も言わずにあの日飛び出してきてしまったことを、何度も後悔した。
それでも、今ここに居る自分を全て否定したくはない。
自分でも我が儘であることはよくわかっているが、
そんなによく出来た人間でもないのだ。

「アスラン、どうしたんだ?」

不意に、本名を呼ばれて驚いて振り向くと、カガリが居た。

「何をそんなに驚いているんだ?」
「別に。カガリが急に名前を呼ぶから」
「それがお前の名前なんだから仕方ないだろ。
そんなことより、会議はまだ長引きそうだから、お前は適当に席を外してもいいぞ」
「そんなことはできないよ。俺は君の護衛だ」
「他にも護衛は居るし、ここなら大丈夫だから。それに、最近上の空のようだしな」

ゆっくり休め。カガリはそう言って微笑むと、また元居た席へと戻った。
アスランは、ぐるっと部屋を見渡して、特に何もないことを確認してから、
カガリに軽く頭を下げて部屋を出た。


外はまだ雪が降っている。
君ともう一度この景色が見たかったと言ったら、君は何と言うんだろうか。
この真っ白な世界を、君と・・・。

「寒いな」

アスランは、ポケットに手を押し込み、車へと向かった。



きっと、お前は、ふざけるな。と怒鳴って、
そのまま俺を抱きしめてくれるのだろう。
そうであって欲しいと思った。









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