雨と涙



「暑い・・・。」

日曜の練習終わり、二人はいつものように、帰路についていた。

季節はもう7月。
梅雨に入り、蒸し暑い日々が続いていた。

「しょうがないっすよ、夏ですから。」

口ではそういいながらも、不快感が消えないのか、隆也もずっとうちわで扇ぎ続けている。二人ともいつも以上に口数が少なく、ただ、歩き続けていた。

「あっ!」

帰り道の途中にある神社の前を通りかかったとき、元希が声をあげた。

「どうしたんすか?」

いきなり足を止めてしまった元希を振り返るようにして、隆也は足を止めた。

「昨日の雨の所為で、縁日なくなったんだよな。」
「はぁ?」
「ここの縁日。」

元希の指差す先を見ると、準備途中の出店がいくつかあった。

「あぁ。七夕の縁日ですか?」

それを見て、やっと元希が言わんとしていることがわかった。

「そっ。雨の所為でなくなったんだよな〜。せっかく楽しみにしてたのによ。」

七夕当日は、不運なことに雨が降った。朝は曇りだったのだが、昼過ぎから本格的に降りだし、結局、縁日は中止されたのだ。神社には、まだ短冊がたくさん結ばれた笹がいくつもおいてあった。

「まっ、いいんじゃないっすか?」

その笹を見ながら隆也が言った言葉に、次は元希が理解しそこねたようだった。

「何言ってんだ、お前。せっかくの縁日が潰れたんだぜ?」

楽しみにしていた元希からしてみればそう考えるのが普通だろう。まぁ、子供なら普通そう考えるだろうし。

「せっかく会えたんだからいいじゃないっすか。」

隆也はそういいながら空を見上げた。

「は?お前、さっきから何言ってんの?」

元希はさっぱり理解できていないようだ。まず、話の意味がつかめていないらしい。

「元希さんにはわかんないっすよ。」

そういって、隆也は足を進めた。

「何でお前にわかって俺にわかんねぇんだよ?おい、待てよ!タカヤっ!」




年に一度、織姫と彦星が出会うという七夕の日。
二人が出会い、流した喜びの涙は、やがて地上に雨となって降り注ぐ。



隆也が最近、誰かに聞いた話だった。


「へぇ〜。」

しつこく聞いてくる元希に、隆也がその話をすると、何か感心したように、元希は空を見上げた。

「まっ、ありなのかもな。」

先程まで、やいやい言っていたのが嘘のように、元希は静かになった。隆也もそんな元希を見ながら、ゆっくりと空を仰いだ。
いつの間にか、空は赤く染まり始めていた。










 + + +










「どうしたんだ、阿部?」

少し足を止めて、空を眺めていたら、田島が名前を呼んだ。その声に、前を歩いていた数人が隆也を振り向く。

「いや、なんでもない。」

そういえば、今日は七夕だったなぁとなんとなく考えてしまったら、つい空を眺めたくなってしまったのだ。
今年は、雨ではなかったが、曇っている。雲が二人を覆い隠し、逢瀬の邪魔をしないようにしているのかもしれない。



あんたは、昔いったことを覚えているんだろうか。










 + + +










「例えばですよ。俺たちが違う高校に通って、離れ離れになって、別々に野球やって、別々に過ごして・・・。」


「んで?」


「いや、何でもないです。」


「気持ちわりぃヤツだな。」



そうして、いつかまた今みたいに一緒に野球したり、こうやって二人で何かしたりできたら・・・。

あんたは涙を流してくれますか??



「ほっといてください。」

隆也そういって、ふてくされていると、元希はゆっくりとまた歩き始めた。

隆也は走って、元希の横に並ぶ。そのとき、元希は笑いながら、一言言うと、隆也の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。






「泣くんじゃなくて、笑ってやるよ。」



END


>>Back