すれ違い、気付くこと




こんな想い、知らなければ良かった。




「来いっつってんだろっ!」
「嫌だっ!」

真冬の寒空の下、俺たちは何をしているんだろうか。
誰も教えてくれないし、当の本人たちですらわかっていないだろう。
ただ、俺は頑なに彼の手を拒んでいた。

「嫌だっつったら、嫌だ。何で俺があんたと一緒に行かないといけないんですか?」
「何でって、俺が来いって行ったら、来るんだよ。」
「訳わかんねー。」
「いいから、来いっ!」
「だから、嫌だっつってんだろっ!!」

どうしてかわからない。
ただ、今彼の手を取ってしまったら、何かが壊れてしまいそうだった。今まで必死に積み上げてきた全てのものが音を出して崩れていくような、そんな錯覚さえ覚えてしまうくらい、俺は怯えていた。

「あ゙ー!!」

と、頭を掻きながら、何か話そうとして、いきなり俺を抱きしめた。
俺が驚きのあまり声を出せずに、呆然としていると、彼は、耳元で先程の怒鳴り声とは比べ物にならないくらい優しい声で囁いた。

「・・・言えばいいんだよ。」

何を?とこちらが聞くことすら許さず、淡々と。
静かに、何かを吐き出すかのように。


「我慢することなんて無いだろ。」


「逢いたければ、逢いたいって言えばいい。」


「声が聞きたいなら、電話すればいい。」





「俺たちは恋人なんだろ?」


最後の台詞は、消え入りそうなくらい小さいものだった。
たぶん、ちょっとしたいざこざで、喧嘩していた二人には、素敵な台詞だったのかもしれない。だけど、俺にとって、この台詞たちは何の意味も成さなかった。


逢いたいって言えばいい?
電話すればいい?
俺たちは恋人?

「ふざけるなっ!!」

俺は、抱きしめられていた腕を振り払って、叫んだ。

彼が発した台詞を頭の中で反芻していた。
そして、その一言一言に、イラついた。

「何が、恋人だ。電話すればいい?ふざけるのも大概にしろよ。」

堰を切ったように、言葉が溢れ出してくる。

「いつあんたが、恋人らしいことをしてくれた?あんたからは、電話の一本もかかってこない。俺が、逢いたいと思っていても、自主練だとか、眠いだとか、そんな理由でいつも適当にあしらってたでしょ?野球が大事なこともわかるし、眠たいのもわかるけど、少しは俺の身にもなってみろよ。ほったらかしにされてる身にも。」

いつの間にか、瞳には涙が溜まっていた。

「それなのに、突然遊びにきたら、あんたの思うままに俺抱いて、勝手に寝て、俺と話すらちゃんとしない。こんなんでも恋人だと思うんですか?それとも、こんな状態でも、俺はあんたのことを好きで居られるとでも?」

最後のほうは自分でも何を言っているのかわからなかった。

「・・・ねぇ、モトキさん。何とか言えよ・・・。」

縋りつくように泣いていた。
精一杯の維持で、塗り固められていた壁は、いとも容易く崩れ落ちていった。
もしかしたら、もう限界だったのかもしれない。この生活に、この想いに俺は耐え切れなかった。

「・・・・助けて。」

手を差し伸べて欲しかった。
お前も来いよって、言って欲しかった。
ただ、隣に居るだけじゃなくて、あなたに欲して欲しかった。

俺は、地面にひざを付いて、彼のコートを握り締めていた。





「・・・タカヤ。」


上から降ってきた優しい声に、俺は顔を上げる。
すると、彼は座り込んで俺と視線を合わせた。

「・・・ごめん。」

そう言って、もう一度抱きしめられた。
ただ、ひたすら謝罪の言葉を囁かれた。
俺が落ち着くまで、ずっと。





 + + +





それから、数日間、彼から全く連絡はなかった。
俺からも連絡は取りにくくて、そのままだった。
終わったのかな・・・ふとそう思った。


暇だったので、テレビをつける。
ちょうど目の前に出てきた人物に、一瞬声を失った。

「・・・モトキさ・・ん・・?」

ヘラヘラしている彼ではなく、とても真剣な表情の彼が居た。
何かのインタビューだろうか?
アナウンサーらしき人物と一対一で対談しているようだった。

『今日は、そいつの誕生日なんですよ。』

『おめでとうって言ってやりたいんですけど・・。』

『上手くいかないもんですね。』

何故か、断片断片しか彼の言葉を聞き取ることはできなかった。だけど、最後の彼の自嘲じみた笑顔だけが頭に残った。


誕生日・・・そう思ってカレンダーを見る。
12月11日。
自分の誕生日だった。

「まさかな・・・。」

この前、あんなひどいことを言ったのに、自分の誕生日を祝ってくれるとは思っていなかった。むしろ、このままこの関係を続けられるとも思っていない。どうせ、別れてしまうのだろうと思っていた。

「・・・けっこうきついな。」

あれだけ、言っておいて、今更になって、自分の想いに気付く。いや、崩れていった壁の内側には、結局それしか残っていなかったんだろう。気付きたくないから、壁を作って知らない振りをしていた。

「・・・やっぱり、」


好きなんだ。


そう感じてしまうと、また涙が溢れてきてしまった。

「俺って、とことんバカだよな・・。」

ソファーにもたれて、天井を仰ぐ。
涙は止まってくれなかった。


そうしていると、電話が鳴った。
出る気がしなくて、留守電に変わるのを待った。


『もしもし、俺。今日、お前の誕生日だったよな。遅くなったけど、誕生日おめでとう。・・・じゃ、これだけ伝えたかっただけだから。』


聞き慣れた声。
ちょうど先程まで聞いていた声だった。

「・・・ほんとバカだ・・・。」

俺は、泣きながら笑った。





嬉しくて、涙が出た。



END


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