戸田北的ホワイトデーv




「3月17日(土)の出来事」


いつもと変わらない土曜日。二人は、いつも通り別々にグラウンドに来ていた。今日は、シニアの練習日である。

ロッカーで並びながら準備をする。特に会話も無いので、お互いに無言。時々入ってくるメンバーに挨拶をするぐらいだった。

(この人、忘れてんだろうな・・・。)

頭の片隅で、ふとそんなことを思う。
強引に言われて、バレンタインのチョコ?らしきものをあげたが、ホワイトデーのお返しが返ってくるとは思えなかった。どうせ、忘れているのがオチだろう。最初から期待なんてしていない。

「モトキさん先行きますよ。」

先に準備の終わったタカヤが声をかけて、グラウンドに出て行った。モトキは「おぅ。」と小さく返事を返すだけで、まだ出て行く様子はなかった。
そんなモトキを見ながら、タカヤは、いつもと何かが違うような気がしたが、モトキの性格を考えると然程おかしくないということに思い至り、結局、触れないことにした。嫌な感じがするのは気のせいだということにして。





練習はいつも通り。
相変わらずの荒れ球を捕りながら、特に変わりない練習をこなす。いつもと違うところをあげるとすれば、モトキさんの制球がいつもより少し、ほんの少しだけよかったということだけ。

「お疲れ様〜。」
「お疲れ〜。」

と言う声が聞こえる練習後のロッカー。いつもグダグダと何かを喋るモトキがやけに静かで、どこかよそよそしい。その姿を見て、やはり始めに感じたものは、間違いではなかったらしい。

「モトキさん、どうしたんすか?」

結局、触れないでいようと思っていたが、触れずには居られなかった。

「別に。なんでもない。」
「ならいいっすけど。」

明らかにおかしい。というか、気持ちが悪い。

「ほんとに、何もないんすか?」

もう一度、確かめなおすと、モトキはいきなり大きな声をあげた。

「だから、何もねーっつってんだろっ!」

その態度にタカヤも「そーっすかっ!」とモトキに負けないくらいの大声で叫んで、そのままロッカーを出て行った。モトキは、そんなタカヤを追いかけることもせず、そのまま黙々と帰宅の仕度をしていた。





「ムカツク。」

帰り道を歩きながら、ブツブツとモトキに対しての愚痴をこぼす。せっかく、心配してやってるのに、逆ギレするあの態度に、タカヤも怒りが隠せなかった。

(イライラする・・・。)

落ち着くために、何かないかとエナメルを探ると、見覚えの無いものが目に入った。

「何だ、コレ・・・?」

声に出しながら、問題のブツを手にとる。その瞬間、タカヤは噴出した。

「・・・っ、俺はそんなに食べないっすよ。」

手にしたのは、モトキがいつも食べているキシリトールガム。それもボトルタイプのものだった。

「・・・ったく。」

そして、一言呟くと、タカヤは先程走ってきた道をゆっくりと戻り始めた。
握り締めたボトルには、あの人の字で「オカエシ」と書かれていた。ありがとうやそういう言葉が書かれていないのがまたあの人らしいと思う。
どうせ、秋丸とか言う友達に何か言われたんだろう。あの人が自分からこんなことしてくれるとは思えない。


それでも、タカヤは嬉しかった。


気が付けば、戻る足取りは、駆け足になっていた。





「お疲れ様です。」

本日は、モトキが鍵当番だった。もう、周りには誰もいないはずなのに、聞こえた声に慌てて振り向き、そして、声を失った。
手に持ったキシリのボトルを見て、なんて声をかけていいのかわからない。自分があげたそれをしっかり持っていることに、素直に嬉しいとは思ったが、それを口に出すわけにもいかない。

「何してんだよ。」
「いえ、一緒に帰りませんか?」
「はぁ?」
「もう、鍵閉めたんでしょ?なら、いいじゃないっすか。」

強引に、タカヤが誘う。
特に、何かがあるわけではなかったが、照れているのか、モトキは、どうすればいいのか迷っているようだった。

「行きますよ。」
「って、おい!待てよ!」

結局、モトキはタカヤの後を急いで追う。
そんなモトキの足音を聞きながら、タカヤは幸せそうに微笑んでいた。




END


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