想いの在処




何日か前に、電話で聞いていた。いくつかの球団から高校に連絡があったことを。そして、1位指名ではないかもしれないが、プロ行きがほぼ確実になったことを。


それでも、気持ちは落ち着かなかった。





嫌いだとか最低だとか、いいたい放題言ってきたけど、結局、俺にはあの人しかいなかったんだと、最近だけど気が付いた。
今のチームは最高で、野球をしていて楽しいと心から想える。
だけど、俺にとっての投手は元希さんしかいなかった。
チームの投手として、三橋に文句はないし、他の奴らだってそうだった。勝つために一丸となって、その目標に突き進んでいく。あの人には到底できないようなことだけど。このチームではできるから。




三橋のうちに集まって、ドラフトの様子を見つめる。各球団ごとに画面に映される名前を一字一句見逃さないように。
そして、電話の通り元希さんは2球団から指名を受けた。その事実にそっと胸を撫で下ろす。
実際、話があったとはいえ、本当に指名されるかなんてわからない。ドラフトとはそういうもんだ。

交渉権の抽選が行われ、球団が決定し・・・。ドラフトは滞りなく進んでいった。
そして、元希さんが映し出された。
高校の会議室かどこかで記者会見でもしているのだろうか。嬉しそうに微笑む姿に、自分も自然と笑みが零れた。



夢、本当に叶えたんだなぁ・・・。



ふと、何となくそう思った。




次々に画面に映し出される高校球児の嬉しそうな笑顔や胴上げシーンを眺めていると、突然携帯が振動した。

「わりぃ。」

そう言って、席を立つ。携帯の液晶に表示されたのは、先ほどまでテレビに映っていた人からだった。
なんて言えばいいのだろうか。
やっぱり、おめでとうございます、だろうか。
出るまでに、微妙に緊張してしまう。意を決して通話ボタンを押すと、聞きなれた声にどこか安堵がした。

「おっ、タカヤか?!もっと早く出ろよ。」
「スンマセン。」
「まっ、いいけどよ。」

いつもより、明らかに機嫌がいいのが声だけでわかった。嬉しいんだろうな、と頭の片隅で思う。

「ところで、ちゃんとテレビ見てただろうな。俺、映ってただろ?」
「見てましたよ、ちゃんと。おめでとうございます。」

元希さんのあまりの勢いに少し不貞腐れたような物言いになってしまった。

「おぅ、サンキュな。」

だけど、それも元希さんのヒトコトで気にならなくなった。
珍しい言葉が自然と返ってきたのだ。
それだけで、彼の喜びが伝わってくるようだった。そして、同じように自分も嬉しくなった。

「よかったですね。」
「あぁ。まっ、当たり前だけどな。」
「相変わらずですね。」

さも当然だと言いきるその神経に呆れながらも、気持ちは穏やかだった。

「・・タカヤ。」

少し落ち着いたトーンで名前が呼ばれる。はい?と不思議そうに答えると、元希さんは少し考えてから口にした。


「今夜、会えるか?」


その言葉に俺も黙ってしまった。

昔、俺たちはそういう関係――つまり、恋人関係にあったかもしれないが、あの試合のことや高校が別になったことなどから、いつからかその関係は形を成さなくなっていた。
それから、もう2年以上が経つ。
少しは別れた頃と比べ、関係も改善した。メールや電話をしたり、時々一緒に出かけたりもするようになった。
だけど、それだけのことで、それ以上でも何でもなかった。

どうしても、その言葉の含みの部分を考えてしまう。

「大丈夫っすけど・・。」

ぎこちなくなってしまう答え。

「じゃ、俺んちこいよ。今日は誰も居ないから。」

聞きなれた誘いの言葉に、変なことまで想像してしまう。だけど、それよりもどうして・・・。

「家族の人とは祝わないんすか?」

そちらのほうが不思議だった。

「あぁ、家族とはちゃんと入団が決まってから祝うって決めてんだ。もしかしたら、交渉の段階でパーになるかもしれないしな。」
「じゃ・・。」

どうして俺は今日誘われているのだろう。

「お前は、別なんだよ。何つーか、最初に一緒に祝いたいっつーか・・。だから、お前は特別なんだっつーの!!」

照れてるんだとすぐわかる彼の態度。それに、こんな殺し文句のような言葉を俺にくれるなんて。

「わかりました。行かせてもらいます。でも、何も持っていかないっすからね。」
「わぁーってるよ。じゃ、適当に来る前に連絡くれ。」

そういうと、忙しいのか、照れているのか、すぐに切ってしまった。暫く、俺は手に持った携帯を眺めていた。

「おーい、阿部!」

リビングから呼ぶ声がする。

「今、戻るッ!」

そう返すと、すぐにリビングに戻った。
そこは既に宴会とかし、酒はないが皆それぞれに飲み食いしていた。俺はその場に加わることなく、帰宅の準備を始める。早めに帰らないと、このあと用事かできたのだ。

「わりぃ、今晩用事できたから先帰るな。あと頼んだぜ。」

俺は、それだけ言い残すと足早にその場を去った。
彼に会いに行くまで、もう1時間もない。







END


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