幸せの在処






ドラフト数日前。

いくつか球団から連絡があった。その中で、意中の球団から声がかかっていたことは本当に嬉しかったが、実際指名されるかなんて、当日になってみないとわからないのだ。
いいようもない不安が募った。
気が付けば、携帯を手にタカヤに電話をしていた。

「もしもし。」

眠たそうな声に、部屋の時計を見た。もう12時になろうとしている。もしかしたら眠ろうとしていたのかもしれない。

「起こしたか?」

悪いと返すと、タカヤはいつも通りに、いいですよ、いつものことですし。と返してきた。俺はそういう奴だと思われているのだろうか。普通ならちゃんと訂正するべき場所なのだが、今日はそういう気分ではなかった。

「今週の土曜、部活は?」
「土曜は休みですよ。だから、三橋んちいってドラフト見る予定ですけど。」

それが?といわんばかりの言葉。

「そっか。」

なんとなく切り出し難い。
不安だとか、連絡があったこが嬉しいだとか。
伝えたいことはあったはずなのに、言葉が続かない。

「どうかしたんすか?」

返事が返ってこないため、タカヤが尋ねてきた。その心配そうな声に押されて、俺はボソッと呟いた。

「・・・いくつか俺ンとこに連絡があったらしい。」

少し間があく。タカヤは何か考えているようだった。そして、その意味を理解した途端、興奮したような声で答えてきた。

「連絡って、ドラフトのことでですよね!?いいことじゃないっすか!なんでそんな声してんすか!?」

それはそうなんだけどな。でも、あんまり喜ぶこともできないんだぜ。
そんな気持ちを誤魔化すように、俺はいつも通りの感じで答えた。

「まぁ、いろいろとあるんだよ。でも、これでプロ入りは確実だな。」

その言葉に呆れたようにタカヤは返事を返した。でも、何となくだが気持ちは察してくれているようだった。

そのあとは、適当に世間話をして電話を切った。

タカヤの声は、俺を落ち着かせる安定剤みたいなものだ。あいつの声を聞いてるだけ、何故だか楽になれた。










ドラフト当日。
連絡があった通り、本当に指名され、俺は意中の球団と交渉できることになった。これで、何か問題が起きない限り、俺はプロになれる。自然と緊張から解き放たれ、自分でも顔が綻ぶのがわかった。


一通りのことを終え、ちょっとできた時間にタカヤに連絡を入れた。この前の予定通りなら今は三橋とか言う投手んちに集まってテレビを見ているはずだ。

「おっ、タカヤか?!もっと早く出ろよ。」

10コールぐらいしてから出たタカヤに軽く文句を言う。いつもならもっと文句をいうところだが、今日は軽く流した。

ちゃんと決まったということを伝えると、タカヤも嬉しそうに、おめでとうございます。といってくれた。やっぱり、他の誰に言われるよりタカヤに言われるほうが嬉しい自分が居る。
惚れてるんだよな・・・。と実感する瞬間である。

この前はあんなに不安だったのに、今は当たり前だと、威張って答える。そんな俺に呆れながらもタカヤは答えてくれた。

そして、俺は電話した本当の理由へと移った。電話したのは、ドラフトの結果を伝えるためだけではなかった。

数日前から考えていたこと。
ドラフトでプロ入りが決まったら、タカヤに・・・。

声のトーンは自然に落ちる。こういう誘い方をしたのは、いつ以来だったろうか?

「今夜、会えるか?」

そのあと返される大丈夫だという言葉に、安堵しながら続きを言う。

「じゃ、俺んちにこいよ。今日は誰もいないから。」

何を意味しているかなんて、相手もわかっているだろう。

家族と祝わないのかと聞かれ、言葉に詰まる。適当に取り繕うとして、思わず本音が零れた。

「お前は特別なんだっつーの!!」

言った傍から、自分で赤面してしまった。タカヤもくると返事をしたので、急いで電話切る。照れてるのがまるわかりだろうなと、頭の片隅で思った。










ピンポーン。

メールが届いて暫くしてからタカヤがきた。手には小さな箱を持っている。

「おめでとうございます。これ、お祝。」

ちょっと、照れたような表情にこっちまで照れてしまった。

「おぅ・・。あがれよ。」

箱を受け取って、リビングへ向かう。中にはケーキが入っているようだった。ソファーの前のガラステーブルにケーキを置いて、何か飲み物を探すようにキッチンへ向かう。ティーカップを出して紅茶の葉を探す。お湯をわかしたり、いろいろするのに少しバタバタしてると、少し遅れてタカヤもキッチンに入ってきた。

「俺が、入れますよ。あんたがやるより早い。」

生意気な言葉だが、どこか緊張をしているのがわかるため怒る気持ちになれない。適当に紅茶の置いてある場所を教えるとタカヤは慣れた手つきで、紅茶を入れ運んできた。それを確認して俺は箱を開ける。中にはショートケーキが二つ入っていた。

「時間的に種類が少なかったんですよ。」

俺が何かを言う前にタカヤが言った。投げやりな言葉に俺は苦笑して、サンキュと答える。その言葉にタカヤは少し照れたように、どういたしましてと笑った。




中途半端に続けてきた二人の関係。
あるときを境にその関係は簡単に壊れてしまった。
一時は、修復不可能にさえ思えたほど、対立してしまっていた俺たちだったが、お互いに別々の高校とはいえ野球を続けていたおかげで、関係は徐々に良い方向へ進んでいた。今では連絡を取り合うことに、余計な気を使わなくてすむ程度には。




ケーキを食べて、今日の話をする。記者会見だとか、胴上げだとか。スポーツニュースをかけながら、何かを避けるよう話し続けた。

そうしている間にも時間は刻々と過ぎていき、見ていた番組も終ってしまった。
どうしようもない沈黙。
自分から誘っておいてどうかと思うが、どうも上手くいかない。タカヤも緊張しまくっている。
この場をどうにかしたくて、テーブルの上を片付けようとすると、タカヤも同じタイミングで同じ行動をとった。考えていることはどうやら同じようだった。



俺は、腹を括って声にした。



「タカヤ。」



ちゃんと、伝えるべきことを。





「好きだ。」





手放してからタカヤの存在の大きさに気が付いた。
バカなのは俺だった。もっと、タカヤのことを考えてやれれば、あんなことにはなっていなかったかもしれない。
自分のことしか見えていなかった、あの頃。結局、傷つけたのは自分で、終わらせたのも自分だった。
でも、今度はそんなことはしない。





「もう一度、ちゃんと付き合ってくれないか?」





大きくなって、有名になって、タカヤを幸せにしたいと想った。
タカヤは俺にとって、かけがえのないものだと気が付いたのだから。



少し困ったような表情をした後、タカヤは綺麗に笑った。





「・・俺も、・・・好きです。」





今初めて、本当の意味で心が繋がった気がした。







END


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