明日は、明日の風が吹く 5月の末。 いつの間にか、季節は春を通り越して、夏を迎えようとしていた。 『あっちー。まだ、5月でコレだろ?夏どうなるんだろうな?』 誰かがこんな会話をしていた。 今年は、地球温暖化の影響か何か知らないけれど、冬はほとんど雪が降らず、今はまだ春なのに、気温は夏日だった。服装も春服を通り越して、今や夏服だ。 タカヤは、近くの球場に足を運んでいた。目的は、本日先発予定になっている榛名元希である。予告先発として名前があがっているのを昨日のスポーツニュースで確認した。 モトキとは、あの冬以来会っていない。会いたかったが、タカヤは連絡が取れずにいた。自分からあんなに酷い言葉を言ったのに、どういって、彼に連絡を取ればいいのかわからなかったのだ。あわせる顔がなかった。 しかし、そんなタカヤとは反対に、モトキは、先発する試合の前日、試合の後、誕生日・・・と頻繁に連絡をよこしていた。本日もきちんとメールが送られてきていた。 「・・・待っててくれるんですね。」 練習中に送っているであろうメールを見ながら、タカヤは呟いた。 モトキはこまめに、返信を強要することなく、ひたすら送り続けてくれていた。 「・・・すみません。」 そう言って、タカヤは携帯を閉じた。 こうして、連絡を拒み続けているうちに半年近くが過ぎ、いつの間にか、モトキの誕生日になっていた。 タカヤは、久しぶりに見る球場になんとなく懐かしさを感じた。別にここで毎日のように練習していたわけではなかった。正しくは、ここに毎日のように見に来ていたのだ。 試合が始まる。 モトキがマウンドに上がる。 久しぶりに見るモトキの姿に、タカヤはそれだけで涙が出てしまいそうだった。 試合は、順調にモトキのチームが点数を稼ぎ、モトキもしっかりと抑えた。 そして、モトキの誕生日に相応しく、完封勝利をおさめた。 『それでは、ヒーローインタビューです。本日は、今季初の完封勝利をおさめた榛名元希投手です。』 インタビューを受けているモトキの姿を遠巻きながら見つめる。 場所は、いつもと同じである。もしかしたら気付いてくれるかもしれないなどという淡い期待も抱いていたことは、嘘ではない。 『今日は、自分の誕生日だったので、自分で自分にプレゼントですね。それに、・・・大切な人がこの試合を見に来てくれていたので、完封できてとても嬉しいです。』 そんな淡い期待は、彼の手で現実へと変えられた。 試合中、一度も自分と視線が絡んだことはなかった。気付いていないと思っていた。なのに、彼は気が付いていた。 優しく向けられる視線に、タカヤは自然と涙を零していた。 ―――オレは、この人を愛してる。 試合中、考えることは結局ひとつだった。 本人を目の前にして、今まで考えていたことをもう一度整理しようと思って、ここに来た。 結果は、何も変わっていないということ。 自分が誰を大切にしているのかということを、再確認しただけだった。 試合後、タカヤはいつもの場所で、モトキが来るのを待っていた。 彼に連絡は入れていない。彼からも連絡は入っていない。だけど、ここで会えるという確信があった。 「・・・モトキさん。」 ゆっくりと近づいていくる足音に顔を上げると、待っていた彼がいた。 彼は、一瞬驚いたような表情を見せた後、幸せそうに笑い両腕を広げた。 タカヤは、何も言わず、モトキの腕の中へと飛び込んだ。 「・・・おめでとうございます。」 誕生日に対してなのか、完封に対してなのか。ただ、タカヤは精一杯の今の気持ちを言葉にした。そんなタカヤをモトキは優しく抱きしめ、「ありがとう」と囁いた。 変わらないものは、結局、何一つ変わらない。 移りゆくものは、自然と良い方向へと移っていくのだろう。 ならば、今の自分たちの関係もまた同じ様なものではないのだろうか。 「・・・愛してます。」 「・・・オレも。」 明日になれば、また何かが導いてくれるのかもしれない。 END |
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