「甘いにおいがする」
彼はそう言った。


金木犀


秋になって、家の庭の金木犀が満開になった。甘い独特の香りが、鼻を刺激する。この香りを嗅ぐと、秋だなと感じた。
「金木犀ですよ」
「金木犀?」
「うちの庭にあるんです」
「ふ〜ん」
「っていうか、嗅ぐの止めません?」
この匂いが気に入ったのか、元希はずっと隆也の首筋に顔を埋めたままである。
「なんで?」
「なんでって、犬じゃないですし、くすぐったいです」
間近で顔を見上げられると、ドキッとした。それに、この状態は周りから見れば、確実に怪しまれてしまう。
「んじゃ、コレは?」
「ぇ・・・わっ」
顔にさっと血が上るのが分かった。
「って、いきなり吸い付く奴がどこにいるんだよっ!」
元希は首筋にチュッと音を立てて、吸い付いた。痕は、然程目立たないが、確実にアンダーを脱ぐときに、見えてしまう。
「いーじゃんかよ」
「よくねーよ」
「つか、欲情した?」
「はぁ?」
「いや、お前の匂い、嗅いでたら、勃った」
まじめな顔をして、何を言うかと思ったら、欲情した?俺の匂いで?
隆也は恥ずかしくて、顔が真っ赤になっている。一方、元希は、やる気満々で、こちらに迫ってくる。
因みに、ここは校門前である。それも西浦のである。

(ありえない・・・。)

「こんなとこじゃ、嫌ですっ!」
「お前んとこの部室に行けばいーだろ」
「ふざけんなっ!んなとこで出来るか!」
「えー」
「えーじゃない。だいたい、家まで待てないんっすか?」
「ふ〜ん、家ならいいんだな」
「それは・・・、誰も、んなこと言ってませんよ」
「いや、言ったな。よしっ、家に帰ってからだな。で、俺んち?」
隆也はしぶしぶ頷いた。とは言うものの、嫌だと言っても、元希のあの顔を見てしまったり、あんなことをされたら・・・。男の身体は正直で困る。元希は元気に、隆也は憂鬱そうに、家路に着いた。


次の日、隆也が腰が痛いと嘆いていたのを、元希は知らない。
(もう、金木犀なんて、いらねーっ)

End.


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