「で、お前はどうすんだ?」 「え…、何にも考えてないですよ」 突然話を振られた後輩は、驚いた表情を見せる。 「じゃ、お前は?」 「俺だって、何も考えてねーよ」 次に振られた同級生は、さも当たり前のように答える。 突然頭を抱えだす少年。 「じゃあ、どうすんだよー」 練習が終わったグラウンドの隅で、数人の少年が円陣を組むようにして集まり何かを話し合っていた。 というより、実際のところは話し合いというより、擦り付け合いというほうが正しいのだろう。 「知るかっ!今回、お前が幹事なんだろ?!お前が頑張れよな!」 「よろしくお願いします。先輩!」 「おまっ、こういう時だけ…」 適当に投げかけられる言葉に、さらに頭を掻き毟る。 「じゃ、そろそろ戻んないと怪しまれるんでこれで」 そして、助けるように見上げた後輩は、すみません、と苦笑しながら立ち上がった。 「ちょっ、待てよっ!」 「残念だったな。まっ、この後もう一度全員に聞けばいいだろ」 「わかってるよ」 「頑張れよ、幹事」 項垂れる相方の肩を励ますように叩くと、その少年もゆっくりと立ち上がり小屋へと向かった。 Straw flower 「お疲れ様です」 「おう。遅かったな」 タカヤが自分のロッカーに戻ると、隣には既に制服に着替え終わったモトキが居た。 タカヤも自分の制服を取り出すと、ゆっくりと着替え始めた。 もちろん、ゆっくりなのはこの後に用事があるからで、モトキに合わせないのは、 モトキが居てもらっては困るからだ。 「え…あぁ、ユウキさんに止められてたんですよ。試合近いからモトキさんの状態どうだって」 「ふーん、わざわざお前に聞かないで、俺に直接聞けばいーじゃん」 「で、ですよね。まっ、キャッチから見た情報が欲しかったんじゃないですか?ほら、ユウキさんもキャッチだし」 モトキからの質問に、どもりそうになるのを必死に誤魔化しながら、タカヤは受け答えをしていた。 それを周りから見ているほかのメンバーは、気が気ではないだろう。 何故ここまで皆が注意を払っているのかというのは、来週末がモトキの誕生日だからである。 「そんなもんかー?」 「そんなもんです」 「じゃ、俺は先に帰るな。お疲れ」 「お疲れ様です」 準備が終わったモトキは、さも興味がなさそうな様子で返事を返す。 そして、そのまま適当に周りにあいさつしながら、モトキは小屋を後にした。 モトキが去った後ろで、タカヤが大きく息を吐いたのは言うまでも無い。 「はぁ…、やっと帰った」 「ほんと、緊張したぜ」 「そういや、モトキって今年が初めてか」 「そうだよなー。あいつがここに来たのって、去年の秋だろ」 「誕生日終わった後か」 戸田北では、メンバーの誕生日を祝うのが恒例行事となっている。 ある程度人数が居るため、それほど盛大には行うことができないが、 プレゼントを買ったり、うまく週末に重なれば、練習終わりにちょっとしたパーティーをしたりする。 同じ時期に数名居れば、まとめてやってしまうこともしばしば。 だから、いつやってもらえるのかということは、案外わかりにくかったりするのだ。 予想はつくが、けっこう本人もその場になるまで忘れていることが多い。 タカヤも去年の12月に経験している。 偶然、同時期に誕生日を迎えるものが1人も居なかったので、タカヤ1人を祝う形となっていた。 まさか、モトキからプレゼントを渡されるとは思っておらず、慌てたことをよく覚えていた。 先輩たちから言わせみれば、それすらもプレゼントになっていたということだが、 タカヤにはいまいちわかっていなかった。 もちろん、今ならよくわかる。 思い出すだけで、顔が赤くなってしまうのは仕方がないと、タカヤは必死に言い聞かせていた。 「で、さっき話してたことだけどな。プレゼントは幹事だから俺が買いにいくとして、一体何を買うんだ?」 今回幹事を務めることになったユウキが皆を見渡していった。 幹事は、毎回順番に回ってくる。 順番は、連絡網順。 今回はユウキで、次回はユウイチと決まっている。 「俺んときは、アデダスのスポーツタオルだった」 「俺は、アンダーだっけな」 「俺んときは、お菓子の詰め合わせっ!」 「俺は、ソックスでした」 思い思いに自分たちがもらったものを口にしていくメンバーたち。 大体は野球関連だったり、学校関連だったりする。 さすがにゲームなどは予算の範囲外になるし、 もらって迷惑じゃないものとなると結局そうなってしまうのだろう。 一部、おかしなものをもらっている者が居る気がするが、気にはしない。 「つーか、何でモトキだけこんだけ悩んでんだ?」 わいわい盛り上がってる中で、1人が声をあげた。 確かに、毎年恒例となればある程度候補もあがり、すぐに決められるだろう。 実際、毎回こんなに悩んでなどいない。 「モトキは特別なんだよ。偶然、あいつと同中のやついねーし、小学校からの知り合いもいねーだろ」 「そういうこと。いつもだったら、初めはだいたいもともと知り合いのやつから情報得てるからな」 「確かに」 「あいつなに考えてるか、いまいちわかんねーんだよな」 「タカヤはどうなんだよ?」 「え、俺ですか?」 「そうだよ。お前あいつの女房役だろ?なら、あいつのこと一番知ってるだろ!」 ごもっともな意見に、タカヤは頭の中のモトキに関する情報を必死に探していく。 「アンダーとかは、最近親が買ってきたって言ってましたし、 タオルとかも別段欲しいって言ってなかったかな?」 「ってことは、どうすんだよ」 「どうするって…」 そう言われても困るが、時間はほとんどない。 だが、先程あがったようなものは既に購入済みのようだし、他に何か…。 どうにかして、榛名との記憶を呼び戻していくタカヤ。 そんな必死に悩むタカヤを、必死に見守るほかのメンバーたち。 「あっ!」 「「「どうしたっ!!」」」 タカヤの声に、皆が体を乗り出す。 傍から見れば滑稽極まりないが、皆それほどまでに真剣なのだろう。 仲間思いでいいことだ、と偶然通りかかった監督が言っていたことなど皆気付きもしない。 「そういえば、この前ワックスが減ってきたとか何とか…」 「ワックスって、グラブのか?」 「たぶんそうです。ちょうどグラブの手入れしてたし」 記憶の断片を思い出しながら話すタカヤに、ユウキは安堵の表情を浮かべる。 「よしっ!じゃ、モトキの誕生日プレゼントはグラブのお手入れセットということで決定だなっ!」 「おう!」 「おっけー!」 何とか無事に決まったとのことで、一斉に残っていたものたちは帰宅の準備を始める。 突然、慌しくなった小屋の中、しっかりと自分の仕事を果たした先輩たちからお褒めの言葉を預かっていた。 「よくやった、タカヤ」 「頑張ったなー」 「さすが、女房!」 自分たちより少し低めのタカヤを抱きしめたり、頭をなでたり、 主役でもないのに揉みくちゃにされてしまっているタカヤ。 キャプテンから、早く帰れー、と声がかかるが、皆お構いなしである。 「あっ、お前ら!便乗して、タカヤに触るなっ!」 タカヤの様子を確認して怒鳴り声を上げるユウキ、それを笑うタカヤに群がるメンバー。 ユウキは急いで自分の準備を終えると、タカヤに群がる輩に襲い掛かるが、 それを見越して群がっていた者たちは出入り口へと走った。 「じゃ、任せたぜ、ユウキ」 「よろしくー」 「お疲れ、タカヤ」 「タカヤ、ユウキ、またなー」 ふぅー、とタカヤが一息ついたときには、小屋にはほとんど人が残っていなかった。 「じゃ、俺も帰ります。お疲れ様でした」 最後に残った鍵当番のユウキとまだ残っている数名に声をかけタカヤも小屋を後にした。 + + + 「「「ハッピーバースデー、モトキ!!」」」 練習後のグラウンドに一際大きい声が響いた。 「えっ…、あ、どうも」 祝ってもらった本人は、名前を呼ばれて大きく瞳を見開いている。 一部のものは、用意していたクラッカーを盛大に鳴らしていた。 「おめでとうございます、モトキさん」 プレゼントは、予定通りタカヤから手渡された。 「おぅ」 何故だか照れて、耳を赤くするモトキに、渡すタカヤのほうまで恥ずかしくなってくる。 そんな二人に対して、周りから揶揄いの声が飛んだ。 「何、赤くしてんだよ」 「ほら、恥ずかしがんなって」 「モトキー、早く開けてみろって」 タカヤは更に顔を赤くして俯いてしまう。 そんなタカヤに、可愛いー、と声が飛ぶが、それは逆効果でどんどんタカヤは小さくなっていく。 逆にモトキは、ふざけんなっ、と周りに怒鳴るが、耳を赤くして叫んでも何の効果はない。 ひとしきり揶揄われた後、モトキがプレゼントを開けた。 「あっ、これって…」 「タカヤが、モトキがもう無くなる、とかって言ってたからさ」 モトキがプレゼントを見ながら頬を緩ませるのを見て、ユウキが言葉を足す。 ユウキの言葉に、モトキがタカヤを見ると、タカヤは恥ずかしそうに、微笑んだ。 「けっこう高いやつじゃん」 「お前結構こだわりありそうだから、ちょっと奮発してみた」 「サンキュー」 ワックスのほかに、いくつか入っていたものを見ながら、微笑むモトキ。 その表情に、周りの皆にも笑顔が伝染していく。 「モトキはこれが最初で最後だからな」 「そうそう。俺らは1年のときからもらってるし」 キャプテンと副キャプテンが、おめでと、と缶ジュースを差し出す。 その缶ジュースを受け取りながら、モトキは2人に改めてお礼を言った。 缶ジュースは、監督からのプレゼントらしく、皆にいきわたると、乾杯!、と大きな声が響いた。 + + + 1時間ほど騒ぐと、監督の声で皆帰宅の準備を始めた。 帰り際も、おめでとう、と言って帰るメンバーにモトキも、ありがとう、と笑い返す。 そうして、度々声をかけられているうちに、いつの間にか小屋には、鍵当番のタカヤと本日の主役であるモトキだけになっていた。 「準備、終わりました」 「終わったー」 「じゃ、鍵閉めるんで出てください」 モトキをせかしながら、自分も外に出る。 明るかった空は、いつの間にか赤く染まり始めていた。 二人で鍵を返しに行きながら、今日のことを思い返す。 「お前よく覚えてたな」 「ワックスですか?」 「そうそう。ほとんど独り言だったろ?」 「おかげで、ユウキさんたちにもべた褒めでしたよ」 その上プレゼントを渡す係まで押し付けられた、と頬を膨らますタカヤ。 「お前のときだって、俺が渡せって言われて渡したんだよな」 「何か、仕組まれてる感じがしません」 「しないでもないな」 あえて、とつけたくなるくらい、何故だかモトキとタカヤはペアとして扱われる。 バッテリーというわけではないのは、確かだ。 何故なら、ユウキとバッテリーを組んでいるピッチャーのケンイチの誕生日は、幹事だったキャプテンがプレゼントを渡していた。 ユウキのときは、ケンイチではなく、幹事だったタカヤから渡している。 ほとんどといって、幹事以外からプレゼントを渡すことはない。 特別扱いを受けているのは明らかだった。 「いい迷惑だよなー」 「何がですか?」 「お前が嫌って言うんじゃなくてさー、なんか揶揄われてるみたいじゃね?」 「まぁ、確かに」 そうこうしている間に監督室についたので、タカヤは鍵を返し、モトキは改めて監督にお礼を言って部屋を後にした。 「こうやって、よく2人で居るせいか?」 「バッテリーだからしょうがないでしょ」 「だよなー」 2人は、タカヤの自転車を取りに行った後、駅へと向かう道を歩いていた。 外灯が灯り始め、土手で遊んでいる子供もほとんどいない。 「もしかして、俺たち変な勘違いされてません?」 「何が?」 「何がって…ほら、付き合ってるとかそんな…」 突然頭の中に思い浮かんだ言葉を、タカヤが口にする。 昔、誰かに言われたような気がしたのだ。 全力で否定した覚えだけはある。 「はっ!…何言ってんだよ…。んなわけあるかよ!俺たち男だし」 「で、ですよね…。ありえないですよ、うん」 いきなり顔を赤くして慌て始めるモトキに、自分の言ったことが存外恥ずかしいことに気付いたタカヤも顔を赤くする。 面白いわけでもなく笑い始める挙動不審な2人だが、お互い何か思うところがあったのか、突然静かになった。 微妙な沈黙が2人の間を満たす。 いつも通りの帰宅路であるはずのこの道もやけに長く感じる。 カバンの中身が揺れる音も、ひどく耳に響いた。 カシャカシャ… 耳を澄ませると、タカヤは自分のカバンからプラスチックに細かいものがあたるような音が聞こえたような気がした。 いつもそんな音のするようなものは持ち歩いていない。 それに、今日はお弁当も何も持ってきていない。 何入れたっけ…、と頭の中で入れたものを思い返していって、何かに気付き声を上げた。 「あっ!」 「…どうしたんだよ?」 声を上げたと思ったらカバンの中を漁り始めたタカヤを、モトキは不思議そうに見つめる。 「あった!…はい、モトキさん」 そういって渡されたものは、ボトル入りのガム。 勢いで受け取ってしまったものの、どういう意味かわからず、タカヤとガムを交互に見つめる。 そんなモトキに、タカヤが少し笑う。 「何だよこれ…」 「モトキさん、いつも食べてるじゃないですか」 「そうだけど…」 「俺からの誕生日プレゼントです」 笑顔でそう言われ、モトキは声を失う。 「前に、俺にくれってうるさく言ってたでしょ?」 「覚えてたのか?」 「まぁ…女房役ですし…」 「おぅ、そ、そうか…」 照れたタカヤにつられるようにして、モトキも頬を赤く染める。 また2人の間に微妙な空気が流れる。 「ありがとな」 「どういたしまして」 お互い顔を合わせて微笑み合うと、前を向いた。 モトキはもらったボトルを、時々カシャカシャと振りながら、うれしそうに微笑む。 ご機嫌なのが、隣を歩くタカヤにも伝わってきた。 そんなモトキを見ながら、タカヤもうれしそうに微笑んだ。 2人を満たす空気は、先程のそれよりも、2人にはわずかに居心地がよくなったような気がしていた。 終わり + + + 2人が付き合う少し前のお話。
Straw flower(ムギワラギク)
永久に記憶しなさい・いつも覚えていたい・ 常に記憶したい・永遠の記憶・献身・思い出・真実 キク科の一年草。原産地はオーストラリア。花期は七〜九月。 花の色は、赤・ピンク・淡紅・オレンジ・黄・白。 別名は、テイオウカイザイク・ヘリクリサム。 和名は、麦藁菊。英名は、ストロースラワー。 |
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