掌に伝わってくる温もりが、とても心地よかった。


ホットココア



いつも通りの練習を終えて帰路につく。日はとっくに暮れてしまって、空には星が瞬いていた。
吐く息が白い。今頃、鼻の頭も赤くなっているだろう。

「クリスマスって、今日か…」

何処からか聞こえてくるジングルベルに、モトキが呟いた。そんな言葉聞きながら、タカヤも同じことを思っていた。
冬休みに入って、クリスマスはすぐに来るイベントであるはずなのに、野球ばかりの自分たちには関わりが薄いのかもしれない。いつも気付くのに遅れてしまう。

「ってことは・・・。げっ、クリスマスが、お前とかよー」

あからさまに、不満です、といったモトキの言葉にタカヤも同じように返す。

「お互い様ですよ」

なんで、モトキさんなんかと、と顔を背けた。
お互いに特に何も考えずに一緒に帰ってきてしまったので、今更なのだが文句が出てしまう。だからといって、今隣の人物と一緒にクリスマスの最後を過ごすことを、本当に嫌がっているわけではなかった。
互いの頬が少し赤くなっていることには、気付かない振り。
それは、ほんの照れ隠し、それだけのことだった。










暫く、無言のまま歩いていると、真っ暗な空から…。


「…雪だ」


手を広げると、冷たい小さな結晶が水滴をつくる。火照った頬に触れる雪は心地良く、タカヤは空を見上げたまま立ち止まった。

「…タカヤ?」

先程まで隣を歩いていた筈のタカヤがいないことに気付き、モトキは後ろを振り返る。そこには、空を見上げたまま瞳を閉じるタカヤがいた。

「おぃ…」

声をかけようとして、一瞬、戸惑ってしまう。その普段見せる幼い表情とは違い、少し大人びたその表情に、ドキッとしてしまった。

「……チッ」

不覚にも見惚れてしまっていたことに、モトキは小さく舌打ちをした。
いつもより少し速い鼓動を隠すように目の前に見つけた自販機へと走る。適当にホットのココアを1つ買うと、先程の場所を振り返った。タカヤは相変わらず、空を見上げたままそこから動こうとしない。

「タカヤっ!!」

大声で、名前を呼ぶ。その声にタカヤも空から視線を戻した。

「受け取れよっ!!」
「えっ?!」

タカヤが準備する間もなくモトキは、緩やかな弧を描くように、先程買ったココアを投げた。タカヤも慌てながらそれをキャッチする。あちっ、っと後ろから声が聞こえるが、モトキはそのまま前を向き歩き始めた。

「俺からのクリスマスプレゼントだ。有り難く受け取っとけ」

背中越しに手を振ると、すぐに後ろからバタバタと走り寄って来る足音が聞こえてくる。予想通りの行動に、モトキは小さく笑みを漏らした。

「待って下さいよ!」

先程よりも頬を赤くしたタカヤが隣を歩く。モトキは、その姿に少しだけ歩くペースを落としてやった。

「で、これなんですか?」
「クリスマスプレゼント?ほら、お前ガキだから」
「はぁ?てか、ガキってあんたも十分ガキでしょ?」
「お前よりかは上」
「1歳しか変わんねーのに」
「2歳・・・って、お前誕生日過ぎてたな。じゃ、クリスマスプレゼントが不服なら誕生日プレゼントにでもしてやるよ」

そうして、ニッと微笑まれてしまうと、タカヤは何も返せなくなってしまう。ありがとうございます、と小さく返事を返すとそのまま俯いてしまった。そんなタカヤの髪の毛をガシガシとかき混ぜながら、モトキは機嫌よく笑った。

「メリークリスマス、タカヤ」

寒ぃーな、とマフラーをもう一度巻き直すモトキを見上げながら、タカヤは先程貰ったホットココアを両手で包んだ。先程より温くなったそれは、ちょうどよい温かさでタカヤの手を温めてくれた。それはまるで人肌のようで、目の前を歩く人の手はこんな温かさなのかなと考えてしまう。
何度か自分の手と相手の手を見比べた後、タカヤは小さく息を吐いて前を向いた。

「メリークリスマス、モトキさん」

そう言って、タカヤはモトキの手を握る。

タカヤの行動に、驚いたまま声が出せずにいるモトキを他所しに、タカヤは確認したかったことを確認出来たのか、やっぱり冷たいですね、と少し赤くなりながらも笑顔でモトキのほうを見上げた。その表情に、モトキはガシガシと今度は自分の頭を掻きながら空を見上げた。



空からは、相変わらず雪が舞っていた。






それは、まだ二人が付き合う前の冬のお話。




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