日常・非日常


訓練を終えた後、イザークは皆より遅れてロッカールームへと向かった。
廊下には聞きなれた声が聞こえてこない。皆、さっさと着替えて先に行ってしまったんだろう。

誰もいないだろうと考えながら、イザークはボタンを押した。シュッという空気の音と共にドアが開く。


「チッ。」

相手を確認した途端、あからさまに不愉快だという態度で舌打ちをすると、同じように不愉快だというような声が部屋に響いた。

「悪かったな。すぐに出るよ。」


予想に反してそこには、イザークの天敵ともいわれるアスランがいた。


「あいつらは?」
「とっくに出ていったよ。」

会話が続かない。というより、続けようとする意思のない会話は続くはずも無く、互いに居心地の悪い空間を作り上げた。



鏡越しにイザークを確認して、アスランは黙々と着替え出す。
アスランは、まだパイロットスーツを身につけたままだった。ジッパーを下げる音がやけに響く。覗いた白い素肌にイザークは目を奪われてしまった。

薄っすらと汗の滲んだ白い肌。それは、光をうけて綺麗に輝く。
軍人を目指すものとしては華奢なように思える体は、それでいて美しい筋肉をつけている。

イザークはずっとその背中を、その向こうの鏡に映るアスランを見ていた。
いつもならイザークもアスランよりも速い勢いで着替えて出ていくのだが、今日は少し違うようだった。


「何か用なのか?」


注がれる視線に不快感を露わにして、アスランは振り返った。声色だけでなく、眉間に刻まれる皺でも十分に分かるくらいだった。

「・・いや、」

だが、イザークはそんなこと全く気にする素振りも見せない。

「じゃあ、お前も着替えたらどうなんだ?」

眉間の皺が深くなるのを感じながら、アスランは言うと着替えの続きを始めた。
それでもイザークは全くその場を動こうとしなかった。それを見て、アスランがもう一度何かを言おうとして口を開いた瞬間、イザークが発した言葉に、アスランの瞳は驚きでいっぱいになった。



「・・・貴様、けっこう華奢なんだな。」



アスランは続く言葉を失い、息を吐き出すのと同じように、はぁ?というのが精一杯だった。イザークはというと、そのまま淡々と続けた。

「この前、抱いたときも思ったが、痩せたのか?」

持ち上げたとき軽かった、などと付け加えられる言葉に、アスランは顔を真っ赤にした。さらっと告げられる言葉に羞恥の色を隠しきれない。

「・・・お前っ、」
「誰もいないし、誰も聞いていない。」

アスランが言おうとしていた言葉を読んでいたようにイザークは言ってしまう。

「それより、どうなんだ?」
「何がだ。」

自分より余裕があるように見えるイザークが憎いのか、語尾が刺々しい。

「体重だ。」

それぐらい分かれ、と続けられる言葉。
少しイライラしたようなイザークの様子を見ていて、ふと何かに思い至ったのか、アスランの眉間の皺は少し浅くなった。反対に、イザークの眉間には皺が刻まれる。

「最近、少し落ちたかな?」
「ちゃんと食べてるのか?まさか、食べ忘れたとかいってるんじゃないだろうな。」
「大丈夫。食事はちゃんととってる。最近、訓練がきつくなってきたからだろ。」

先程とは打って変わって、アスランの言葉には余裕がある。イザークのほうはどこか焦っているようにも思える。

「でも、イザークが心配してくれるんだな。」

そう言って、アスランが微笑むと、さっきとは逆でイザークの顔が真っ赤になった。

「・・・っ誰が、貴様の心配などするかっ!」

声を荒げて怒鳴っても、余計にそれを強調するようなものだった。
自分で気付かないうちにそういう発言をしていたことに、イザークはかなり焦っていた。指摘されて初めて気付いたのである。

「そうか。お前が俺の心配を・・・。」
「だから、誰が貴様の・・・。だいたい、俺と寝てる奴が痩せることが許せないだけだ。貴様が・・・。」


「ありがと。」


アスランが軽く微笑みながらそういうと、イザークは調子が狂ったのか小さな声でもごもごと、体調管理は基本だとか、だいたい貴様が・・・。といっている。そんなイザークが可愛らしく思えた。


アスランとイザークは天敵といわれているが、それほど悪い関係ではなかった。
お互いのことをちゃんと認めた上で、この関係が成り立っている。
まぁ、心は別として、体の相性だけなら最高だろう。


クツクツと楽しげに笑うアスランに気付くとイザークはキッと睨んだ。

「着替えたんなら、さっさと出ていけ。」
「あぁ、すぐ出るよ。」

そういって鏡に映るイザークにもう一度微笑むと、ロッカーを閉め、ドアへと向かったが途中で、あっ、そうだ。といって、振りかえった。



「お礼。」



そういうと、また微笑んで出ていった。
残されたイザークは、右頬に触れながら不機嫌そうにアスランが出ていったドアを見ていた。



だが、それもすぐに優しい微笑みに変わる。





END


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