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その傷痕に、唇付けを... 「俺の勝ちだな。」 二人きりの空間にイザークの声が響いた。 オーブへの潜入を終えてから、考え込んでしまう自分を何とかしようと、アスランはここへ来たのだった。 ドアを開けると同時に聞こえてくる音に、先に誰か来ていることを知る。こちらを見向きもせず、黙々と銃を撃ち続けていたのはイザークだった。 アスランは、イザークの隣ではなく一つ間を置いて立ち、一呼吸置いてから、出てくる的を撃ち続けた。 何も考えないように無心で、ただ出てくる的のみに集中しようと。 途中、増えた銃声にイザークもアスランがいることに気が付いたが、お互い何も言わず前を向いたまま、撃ち続けていた。 それが、いつしか競争のようになり、互いに張り合って・・・・、 今に至る。 「勝負なんてしていたのか?」 確かに、勝負というものはしていなかったはずである。 「貴様が、勝手に張り合ってきたんだろうが。」 俺は関係ない。とでも言いたげな表情でイザークはアスランを見る。後から来たのはアスランだったが、勝負のようになってしまったのはお互い様だろう。少しその態度に苛つきながらも、相変わらずのイザークにアスランは助けられていた。 「そんなことはお互い様だろ。まぁ、どちらにしろあのとき先に外したのは俺だけどな。」 コーヒーでも奢るよ。と苦笑しながら答えると、イザークは、当たり前だ。と言いつつ、アスランの予想外の反応に驚いていた。 コーヒーを入れながら、ソファーに座るイザークを見つめていた。 アスランが外したあの一発は、彼を見た後だった。 一瞬、彼に瞳を奪われていた。 ハッとしたときには、もう遅かったのかもしれない。放たれた弾は、中心から数センチずれていた。 「はい。」 と、コーヒーをイザークに渡して自分も隣に座った。 軽く汗をかいた体をゆっくり沈める。 イザークも同じ様に背中を預けて、コーヒーを飲んでいた。 所作もそうだが、怒鳴っていないイザークは本当に綺麗だ。 「何だ、じろじろと。」 何故か、とても、欲情した。 同時に、不安定なんだな、と自分を観察している自分を見つける。 「イザークって、エザリア様似なんだな。」 アスランは、カップをテーブルに置き、イザークとの距離を縮める。イザークは、先程の視線にしろ、今の言葉にしろ、アスランの意図が掴めないのか、この間を持て余しているようだった。 「その肌も、その髪も、よく似てる。」 ゆっくりイザークの髪に触れる。 声が少し低くなるのを感じた。 「それを言うなら、お前もレノア様にそっくりだ。」 「そうかな?」 アスランの行動から意図に気付いたのか、近づいたアスランを抱き寄せるようにその濃紺の髪にイザークは触れた。 「どう見たって、議長ではないだろ。」 そう言って、苦笑するイザークにアスランも、そうだな。と微笑んだ。 アスランが胸にあった顔を持ち上げると、ちょうどイザークと目が合った。綺麗なアイスブルーの瞳とともに痛々しい傷が瞳に映る。 (・・・ごめん。) イザークの顔に傷つけたのは、自分の親友であるキラだ。 アスランは、心の中で謝った。謝罪を言葉にするのをイザークは嫌うから。 言葉とともにその傷を伝うように唇を落とす。 ゆっくりと、静かに。 できるだけ、傷に触れているを誤魔化すように。 「・・・誘っているのか?」 笑いを含んだ低い声で言った。 イザーク自身も、アスランの行動に煽られているようだった。 「だとしたら・・・?」 アスランはイザークの言葉に唇付けを止め、真正面で笑みを零した。 それを肯定ととったイザークは、アスランに口付ける。 ソファーに倒れこむように、キスも深くなっていく。 戯れるように舌を絡めては、吐息を奪うように深く。 熱を増していく体に、ここが談話室であることを忘れていた。 ――シュンッ イザークがアスランの服に手をかけようとした瞬間ドアが開く。 二人が慌てて態勢と整えていると、ディアッカとニコルが入ってきた。 「お前らもいたのか。」 「珍しいですね。二人でお茶してるなんて。」 珍しいツーショットに二人とも少し驚いているようだった。 「いや、俺が誘ったんだよ。なぁ、イザーク。」 「・・あぁ。」 二人とも荒れた呼吸をばれないように、出来るだけ平然を装って答える。 そして、アスランは自然とその場を立った。 立つ瞬間、イザークの耳もとでヒトコト囁いて。 「じゃ、俺はもう部屋に戻るから。おやすみ。」 イザークは、待てっ、と勢いよく立ち上がったが、アスランはそのまま出ていってしまった。 そのまま、体を持て余すように、暗い窓の外に瞳を向ける。 『続きはまた後で。』なんて言葉、自分から誘ったんだろうが、とイザークは少し苛ついて舌打ちをする。 そして、窓に映る自分の顔を見てまた舌打ちした。 (あいつ・・・) 先程、アスランが触れていたのは顔に今も残る傷だったのだ。 加えて、オーブに潜入していたときたしか、あいつは誰かと話していたことに思い至った。 (バカか・・・) イザークは、アスランの後を追うように部屋を飛び出した。 今日のアスランの行動はそのせいだと気付いてしまったのだから。 追いかけずにはいられなかった。 「おいっ、イザーク何処行くんだ?」 後ろから聞こえてくるディアッカの声も無視して、イザークはアスランの部屋へと向かった。 「割り切った筈だったのにな・・。」 オーブでキラと再会した。 ただそれだけのことだったのに、揺れる自分がいた。 キラはプラント側につかず、地球側についたのだ。 と、頭の中では分かっていたはずなのに、心がついていかなかった。 「割り切ったって、・・・オーブでのことか?」 一人のはずの部屋に聞こえた声に、ハッとしてアスランはドアの方向を見る。 そこには、眉間に皺を刻んだイザークがいた。 表情から、イザークが先程のことに気がついたと、アスランにもわかった。 「・・するどいな。」 苦笑しながら、イザークに背を向ける。 今の弱った自分を見せるのは、憚られた。イザークと自分はそんな関係ではないのだから。 アスランが、背を向け黙ってしまうと、イザークは小さく溜め息をつきアスランを抱き寄せた。驚いて声を上げるアスランを無視するように、ただ抱きしめていた。 いつもなら嘲笑するぐらいするイザークなのだが、何故かそうする気も起きないみたいだった。 イザークはゆっくりと背中に回される腕を感じながら、濃紺の髪に唇付けた。 END |
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