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幸せの違和感 いつの間にか、季節は秋になっていて、外を歩くのに上着を一枚多く羽織るようになっていた。 「悪い、待たせたか?」 「いや、今来たとこだ。」 どこにでもいるカップルのような会話。 久しぶりに、外で食事をしようと仕事帰りにイザークとアスランは、駅の改札付近で待ち合わせていた。 「何が食べたい?」 「特に何もないけど・・・、暖かいものがいいな。」 「そうだな。」 冷たくなった風が、なんとなくそういう気分にさせた。 「まぁ、適当に探すか。」 特に店を決めていなかったので、街をぶらつくことにした。 最近は、お互いに忙しくて、二人で食事をする機会が少なくなっていた。こうやって、外に出ることもなかった。デートみたいで楽しい。などと、口には出せないが、アスランは嬉しかった。イザークもまた、二人で居る時間を楽しんでいた。 通りを歩いていると、クリスマスという文字をちらほらと見つけることができる。もうそんな季節なのかと思うが、考えてみれば今年も残すところ2ヶ月となっていた。洋菓子店ではもうクリスマスケーキの予約が始まろうとしていた。 二人で居るとき、あまり会話はない。 周りから見てみれば、どういう関係かさえわからないと思うが、二人は恋人同士だ。だからといって、変にベタついたりすることもなかった。二人で居るこの時間が、空間が、流れる空気が、好きなのだ。 沈黙もまた、二人にとって心地がよかった。 (・・・?) 横断歩道を渡ろうと信号待ちをしていると、アスランがある一点をずっと見つめていることに気がついた。イザークも同じ場所に目を向けると、そこには、有名なジュエリーショップがあった。ガラス張りの店内には、若い男女のカップルが見える。先程から何度も手を下げたり上げたりしている彼女の様子を見ていると、指輪を選んでいるようだった。 彼女の表情をはっきり見ることはできないが、幸せそうなことだけは、何となく伝わってきていた。 そんな姿を見ていたアスランは、微笑ましそうに、だけど、どこか切なそうに二人を見ていた。何となく、何を考えているのかはわかった。どうせつまらないことだろうと、思ってしまうが、つまらないことほど、気になってしまうこともあるからどうしようもない。 (そんな顔をするな・・・。) 信号が青になって、人が歩き始める。 イザークはアスランの肩を叩き、前を向かせた。アスランは少し驚いたようだったが、イザークが微笑む姿を見て、軽く微笑み返し、また歩き始めた。 「で、お前はどうすんの?」 先日の食事の話をイザークはディアッカにしていた。まぁ、アスランの誕生日プレゼントをどうしようかと話していたときに、そのままこの話題になったわけだが。 「あいつが、欲しいならソレを渡すだけだ。」 アスランが言わんとしていたことは、イザークも良くわかっていた。いくら世の中が昔に比べ、同性愛者に寛容になったとはいえ、嫌う者は嫌う。だから、あんな店で、二人でイチャイチャと・・・ (まぁ、イチャイチャはどうかと思うが) ペアのものなんて買いにくい。といって、欲しくないわけでもない。なんとなく、こういう話題というか、ペアで何かが欲しいということには、二人とも触れたことがなかった。 なんとなく、雑誌で眺めたり、テレビで見たり・・・。見るだけで、思うだけで、口には出さなかったのだ。 「あいつのサイズとかわかってんのか?」 買うことが決まれば、あとはサイズやデザインを決めるだけだった。 「それは、もっと前から知っている。」 「前から?」 「もともと、指輪は渡すつもりだった。」 「渡すって、お前もしかして・・・。」 「悪いか?」 「いや、そうじゃないけど・・・。」 男に婚約指輪を渡すのか? いや、式を挙げないなら、結婚指輪と一緒か? ディアッカは、イザークの考えに一瞬思考を遠くに飛ばした。 だが、それだけアスランのことを大切に思っていることも、ディアッカは十二分にわかっていた。 「まぁ、いいんじゃないの?」 軽く揶揄しながら、ディアッカは笑った。イザークはそのディアッカの表情に納得いかないようだったが、すぐに忘れることにしたらしい。 「なら、デザインはどうするんだ?」 「シンプルなものがいいが・・・。」 「お前はそうだな。まっ、あいつにもそうだろな。」 「あぁ、そうだな。」 ディアッカと話した後、イザークはその足で、昨日通りで見かけたジュエリーショップに向かった。 「いらっしゃいませ。」 きちんとスーツを着た女性が声をかけてきた。店内には、数人の客がいた。それぞれに店員がついている。 「リングを探しているんだが。」 「リングでしたら、こちらに並んでいるものが新作となっております。何かご希望はございますか?」 イザークは新作といわれた指輪にざっと目を通した。 シンプルなプラチナのものから、ダイヤやルビーなど宝石をあしらったものまで、いろいろとある。だが、どれもアスランに似合うとは思えなかった。 「シンプルで落ち着いたものがいいんだが・・・。」 「恋人さまへの贈り物でしょうか?」 「あぁ。」 イザークはやや照れながら返答した。 「お探しのデザインから想像するととても優しい方なんですね。」 店員の反応に、お世辞とはわかっていててもやはり嬉しかった。 「では、少々お待ちいただけますでしょうか?いくつかお探しのものに近いものを探してまいります。」 そういって、店員はイザークの前から離れ、数分してから戻ってきた。手にもった入れ物にはいくつかのリングが置かれていた。 「お待たせいたしました。いくつか探してまいりましたが、いかがでしょうか?」 目の前に並べられたいくつかのリング。どれも、シンプルで落ち着いたデザインのものだった。確かに、イザークが求めていたデザインがそこに揃っていた。 それぞれを手に取りながら、イザークはアスランの手を考えた。どの指輪が彼の手に一番馴染むのかと。 ゆっくり時間をかけて、イザークはひとつのものを手に取ると、 「これをください。」 といった。 手にとったものは、アスランという人物を良く知っているものであれば、「あぁ。」とすぐに納得するようなものだった。 彼をそのまま表しているような、優しくだが芯の通った、そんなデザインのものだった。 ペアで自分のものとアスランのものを用意してもらい、それぞれ別々に包んでもらった。 イザークはさすがにその場ではつけなかったが、家に戻り落ち着いてから、ゆっくりとそれを手に取った。自分の手にもよく馴染むそれは、なかなか満足のいくものだった。 明日はアスランの誕生日。 これを渡したときの彼の姿を想像しながら、イザークは残してあった仕事に手をつけた。 「「「ハッピーバースデー!!」」」 その夜は叫び声で始まった。 毎年変わらず行われるバースデーパーティー。この歳になってか?と思いながらも、知り合い同士で集まるいい機会である。8月にもイザークの誕生日で集まったばかりだった。 今年は、偶然29日が日曜日だったので、誕生日当日に、パーティーが開かれた。毎度こういうわけにもいかないため、何故か意気込みが違うようにも思われた。 「ありがとう。」 みんなで、飲んで食って騒いで。 ニコルが経営する喫茶店を貸し切っているため、皆、はめを外しすぎているようだった。 そうやって、騒がしくも、嬉しい一日を乗り切って、イザークとアスランは家路に着いた。本日は、アスランも共にイザークの部屋に帰宅である。当たり前といえば当たり前のことだが。 家について、コーヒーを飲みながら一息つく。ソファーにゆったり腰掛けながら、先程のパーティーを思い返していた。 相変わらず、皆が集まると異常なほどの盛り上がりを見せる。主役であるアスランよりも、周りのほうが元気だった。 「相変わらずだな。」 「あれは、騒ぎすぎだ。」 基本的にイザークもアスランも共にあまり先頭になって騒ぐタイプではない。なので、いつも皆に圧倒されるばかりだった。 「でも、やっぱり嬉しいな。」 それでも、大勢に自分の誕生日を祝ってもらえることは嬉しかった。 アスランは、笑いながら言った。とても幸せそうに見えた。 暫くそうやって二人で談笑しながら、時間を過ごした。 すると、イザークが寝室へと姿を消す。戻ってくると手には小さな箱が握られている。 アスランは、じっとその箱を見つめた。 「何だそれ?」 「俺からの誕生日プレゼントだ。」 差し出された箱をまじまじと見つめるアスランは、何が入っているのか必死に考えているようだった。この小さな箱にいったい何を入れることができるのかと。今まで、イザークがこういうものを渡すことはなかった。それに、想像もしていないため、思い浮かばない。 「開けてみればいいだろ?」 じっと箱を見つめたままのアスランに、イザークは笑いながら言う。その言葉に従いアスランは、ゆっくりとリボンを解く。白い小さな箱を開けると、 「もしかして・・・。」 どこかで見たことのある入れ物が見えた。そう、指輪や宝石の類を入れるケースだった。まさか、こんなものがイザークからプレゼントされるなんて思いもしないアスランは驚きを隠せないようだった。 「貸せ。」 手に持ったまま固まったアスランからイザークはケースを奪うと、そのふたを開け、指輪取り出した。そして、当たり前のようにアスランの左手をとり、薬指にそれをはめた。 「Happy Birthday...」 優しく囁きながら、その指輪に口付けた。 イザークの気障だがその優雅な振る舞いに一瞬見惚れてしまった。今、彼が何をしているのか・・・、気付いた途端、彼は手を引っ込めた。 「どうした?耳まで真っ赤だぞ。」 笑いを含んだその台詞に、アスランは怒りと恥ずかしさとで、さらに顔を赤く染めた。 「ぉ、・・お前がこんなことするからだろっ!」 プレゼントを貰っておきながら、逆ギレしている自分に、アスランは、頭の片隅でおかしいと思いながらも、怒鳴るのを止められなかった。 「今更、照れるほどのことでもないだろうが。」 アスランの言動のひとつひとつを面白そうに、愛おしそうに、イザークは眺めていた。そして、むくれて背中を向けてしまったアスランにゆっくりと近づき、背中から優しく抱きしめた。 「悪かった。からかい過ぎた。」 そう謝りながら、首筋に顔を埋める。そして、軽くその首筋に口付けた。 「・・・ありがと。」 仕方ないなといった態度を崩さないで、アスランはお礼を言った。後ろを肩越しに振り返るとイザークの顔が見える。 暫し見詰め合って、自然と唇を重ねる。 触れ合う程度の唇付けを何度も重ね、深く重ねる。 言葉を交わす代わりに唇付けを。 合間合間に触れ合う彼の左手に自分と同じリングを見つけ、アスランは、幸せそうにその手に自分の右手を重ねる。 幸せだなぁ・・・。 そう、考えながら、二人は真っ白なシーツの海へと沈んだ。 触れる手に感じる金属の感触。今まではなかったその感触の違和感が、心地よく、当たり前になるまでにはもう少し時間がかかりそうだった。 それまで、この感触を手放さないように、温もりをいつまでも、感じられるように。 アスランは、誓うようにイザークの指輪に彼と同じように、厳かに唇付けた。 完...。 |
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