時々、あの日々が、嘘だったんじゃないかと考えてしまう。





夢の後先





 終わらない戦争。
 減らない犠牲者。
 失われていく仲間の命。



 『自分は何がしたくてこの場所に立つことを選んだのだろう。』

 イザークは、艦の窓から深く暗い宇宙を眺めながら考えていた。
 プラントを守りたくて、この場所に立ったはずだった。あの時は、確かにそう思っていた。そのために、アカデミーに入学し、厳しい訓練に耐え抜き、赤を纏ったのだ。


 なのに、今のこの状況は何を示す?


 プラントを守りたいという気持ちに偽りはない。自分にとって、プラントはかけがえのないものだ。だが、プラントが全て正しいと、思うことはできなかった。

 一度目の戦争で、自分の認識の甘さを知った。どちらが悪いのか、ただそれだけに囚われていた。
 先に核を放ったのは?アイツの母の命を奪ったのは?
 自分たちが今行っていることが、彼らがしたことと大差ないことに気付かない振りをして、命令のままに任務をこなし、同じ様に命を奪っていたのは自分だった。
 そして、あれから時を経て、未だに自分は戦場に居た。
 赤から白へと纏う色は変わったが、やっていることは変わらない。結局、戦争をしているのだ。あのときから比べれば、思慮深くなったと思う。部下を従え、戦場に赴いているのだ。自分だけがよければいいというわけではないのだから。


 俺は、どうすればいいんだろうか。


 アイツは、自分の意思で行動を起こし、あの時と同じ様に、未来を思い前を向いている。
 だが、自分は、どうだろう。このままでいいのだろうか。何もせず、またあの時と同じことを繰り返すのだろうか。





「どうしたんだ?」

 思いに耽っていると、後ろから声がした。ディアッカが、コーヒーを片手にこちらに歩いてくるのが見える。

「なんでもない。」
「って風には、みえないけどな。」
「・・・うるさい。」

 コーヒーを手渡され、口にしながらもう一度宇宙を眺めた。

「・・・どうすればいいと思う?」
「お前の好きにすればいいだろ?俺はどこまででも着いて行きますよ。」
「そう簡単にできたらいいんだけどな。」
「シンプルに考えたらいいだろ?今、自分が何をしたいのかって。」
「勝手な行動が出来ると思うのか?あの時とは立場が違う。」
「立場なんて大差ないさ。俺たちは、あの時と何も変わっていない。」
「・・・何も?」
「そ、何も。結局、戦争をしてる。」

 ディアッカも自分と同じことを考えていたようだった。付き合いが長いと考え方も似てくるのだろうか。イザークは、そんな相方に、ふと本音が漏れた。

「・・・時々、あの頃に戻りたくなるときがある。」
「それは、たぶんみんな同じだと思うぜ。」
「ニコルやラスティーが居て、俺とお前。それに・・・」
「アスランがいた。」

 ただ、前を向いて、正しいと信じたことだけをやってきたあの頃。周りなんて後回しだった。たとえ、それが戦争に繋がる訓練であったとしても、集まっているのは同い年ぐらいの仲間なのだ。学園生活とあまり変わりはない。
 笑って、泣いて、怒って、喧嘩して、恋をして。
 プラントと地球の関係が緊迫する中、幸せな時間だった。心からそう思えた。

「・・・そうだな。アイツがいた。」

 そして、何より、アイツが・・・アスランがいた。
 アスランが傍に居たことが、これほどまでに大切なことだったと気付いたのは、いつだっただろう。
 前の戦争で、突然、隣から居なくなったアイツは、結局、戦争が終結しても隣に戻ってくることはなかった。
 大切だった。愛していた。だから、突然姿を消したアイツを恨んだこともあった。それでも、愛しい存在ということには変わりなかった。
 何とか連絡がとれるようになっても、忙しくて逢うことすらままならない日々。そして、また戦争は始まってしまった。
 敵対する自分たち。日に日に大きくなっていく存在の重要性。あぁ、こんなにも自分はアイツを欲しているのだと、気付いたときには既に戦火の中だ。

「今頃、戦争を止めようとして、足掻いているんだろうな。」

 アイツが足掻き、もがき、苦しみながら現実と戦っているのに、俺はこのままなのだろうか。 

「いい加減、俺たちもこれからどう行動するのか決めないとな。」
「あぁ。」
「このままプラントに従い続けるのか、それとも・・・」
「アイツらと一緒に、新しい未来を築くか。」
「選択肢はもう決まっているんだろ?」
「お前も俺に着いて来るんだろ?」
「お前は、アスランがいないと危なっかしくて見てらんないからな。」
「うるさい。お前だって、彼女に会いたいんだろ?」
「あっ、バレた?」

 アイツが足掻き、もがき、苦しむのなら、俺も同じ立場に立って、足掻いて、もがいて、苦しめばいいだけなのだ。
 それだけのことなのに、簡単にいかない現実に苛立った。

 立場も何もかも捨てて、アイツと同じ様に、あの頃と同じ様に、ただ前だけを見て、後ろを振り向かずに、生きていければ幸せだと思う。
 そうすることの出来ない自分は、弱い存在なのかもしれない。だが、それも自分で選んで決めたのだから、仕方ないことなのだろう。

「さて、隊長さんが戻らないと、そろそろ困るんじゃないか?」
「わかった。コレを飲み終わったら、すぐ戻る。」
「了解。」





 『俺は、プラントを守りたい。』

 この場所に立っているのに必要なのは、これだけでいいのだろう。これだけで、自分は前に進める。守る形が違えど、思いは変わらない。


 アスラン、お前は、今何を考えている?


 あの頃、思い描いた夢を、俺たちは、自分の力で手に入れる。誰にも、邪魔はさせない。


「皆に、伝えておくことがある。」


未来には、光しか存在しないのだ。




END



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