目を覚まして瞼を開けると、見えるのは白い天井。
見慣れたはずのそれに、少し悲しくなるのは気のせいだろうか。


そして、君にまた恋をする


「うーん」

ゆっくりと伸びをして体を起こす。夕べは遅くまで起きていたせいか、体が怠い。

「もう若くないな」

なんて、声に出してしまう自分が既に歳なのだろう。
適当にシャツを羽織り、ジーンズをはいて部屋を出る。普段より遅い目覚めに、何もする気にならなかった。
アスランはコーヒーを片手にテレビの電源を入れると、ソファーに座った。流れていく映像を視界の片隅に捕らえながら、空を見上げてみる。視界には、綺麗な青空が広がった。

「・・・気持ちいい」

夏のようにきつくない陽射しが、部屋に差し込んでいる。体に浴びる光も心地よかった。
再び眠りに落ちてしまいそうになるのを無理矢理覚醒させて、アスランは立ち上がると窓を開けた。秋の冷たい風が部屋に吹き込む。

「さっ、洗濯」

一人暮らしにもいつの間にか慣れ、家事も一通りこなせるようになった。その中でも、洗濯は好きだった。真っ白なシャツが青空に舞う姿はいつ見てもいいものだと思う。
そして、それは住人が一人増えても変わらない。洗濯は自分の担当となって、今もそれに勤しんでいる。

(洗濯が終わったら掃除だろ。それが終わったら、買い物に行って夕飯の準備もしないとな)

頭で次のことを考えながら、慣れた手つきで洗濯物を干していく。まるで、主婦になってしまったようだ。
何で休みの日に、自分がすべての家事をしなくてはいけないのかと思うが、仕方ないといえば仕方ない。もう一人の住人は、既に仕事に出掛けてしまったのだから。
昨晩遅くまで起きていたのは、相手も同じなのに、彼は朝一で仕事に向かったのだ。こうやって休ませてもらっているだけましなのだろうか。


洗濯と掃除を済ませ、もう一度ソファーに座り直す。大きく伸びをすれば、すぐに眠気が襲ってきた。
暖かい陽射しは、それだけで充分な力があった。





   + + +





イザークがうちに帰ってくると、アスランはソファーに座ったまま眠っていた。
音を立てないように静かに近寄ると、すやすやと気持ち良さそうに寝息をたてている。昼間のままなのか、薄着なアスランに、イザークは手に持っていたジャケットをかけてやった。
暫く、髪を撫でながらアスランの寝顔を楽しむと、イザークはぐるっと周りを見渡した。

「・・・食事はまだだな」

普段なら、もう夕飯が用意されていてもおかしくない時間であったが、そういった気配はない。ベランダには、今朝にはなかった服が舞っている。
洗濯と掃除を終わらせて、眠ってしまったのだろう。夕べは、遅かったので仕方ない。
イザークは、一度自室に戻ってから、食事の準備を始めた。





「アスラン、起きろ」


聞き慣れた声に目を開けると、仕事に行ったはずの彼がいた。眠気眼を擦りながら、相手を確認するアスランに、イザークはチュッと音を立てるように額にキスをして立ち上がった。

「夕飯出来上がってるぞ」

その言葉に、立ち上がると準備した覚えのない夕飯が出来上がっていた。体には彼のジャケットがかかっている。

「・・・寝てたか?」
「ああ、気持ち良さそうにな」
「・・悪い」

まだ、うっすらと靄のかかっている頭を覚ますために、アスランは顔を洗いに行く。

「ありがと」

顔をあげる差し出されたタオルを受け取った。

「冷蔵庫の中、何もなかっただろ?」
「そうでもなかったぞ」
「買い物まだだったのに?」
「だから、こうやって夕飯があるんだろ?」

テーブルの上に並べられた料理は、充分な出来栄えのものだった。

「あれ、何?」

テーブルの上に見つけた見慣れないものを尋ねると、答えはないまま着席を促された。

「何もしないわけにもいかないからな」

イザークは軽く笑いながらその箱を手にとった。
中から取り出されたのは、ワインボトル。ラベルはアスランのほうからわからない。
イザークは、微笑みながらワイン注いでいく。磨かれたグラスに紅い液体が揺れる。

「ほら」

アスランが差し出されたグラスに手を伸ばすと、ボトルのラベルが見えるように置かれた。

「1986年・・・」

「さぁ」

掲げられたグラスにアスランもグラスを持ち上げた。





「Happy Birthday Athrun」





甘く囁かれた台詞は、夜中に耳元で聞いた掠れた声と同じように心に、身体に染み渡っていく。

「ありがとう」

まるで、二度祝ってもらったみたいだ。とアスランは微笑んだ。

「それはよかった」

イザークはアスランの表情を確認して、軽く微笑むと食事に手をつけ始めた。
アスランはというと、じっと目の前のボトルのラベルとそれを用意した相手を交互に眺めていた。そして、苦笑した。

夕べは遅くまで愛されて、今夜はかっこよく決められてしまった。こんな彼を誰が愛せずにいられるだろうか。

「最高だよ」

アスランは掲げたグラスの紅い液体をそのまま飲み干した。





   + + +





「イザーク、来いよ」

イザークがシャワーを浴びて寝室に戻ってくると、そこには一糸纏わぬアスランがいた。

「昨日も充分楽しんだだろが」

イザークもその意味することが分かり、苦笑しながら、明日も朝が早いんだ。と、アスランの隣をすり抜けてシーツに包まる。不服だという気配が後ろから伝わってくるが、あえて無視をした。だいたい、アスランも明日は朝が早いはずだ。

「足りない」

アスランは、そんなつれないイザークを組み敷くように覆いかぶさった。
昨日十分に愛されたが、今日も愛し合いたかった。肌で彼の熱を感じて、自分の熱を分け合うこの行為に意味を与えるならこういうときだろう。
幸せだと、満たされていると、彼に伝えるために。

「若いな」
「お前も若いって」

呆れたようにイザークが笑えば、アスランも顔を近づけて悪戯を楽しむように笑う。

「仕方ない、可愛がってやるか」

チュッと額にキスをして、体勢を入れ替えると、今度はイザークがアスランに覆いかぶさった。

「言葉に気をつけろ。可愛がるのは…っ」

イザークの言葉が気に障ったのか、アスランが文句を紡ごうとすると、イザークはその言葉を摘み取るように、深く唇付けた。

「お前だろ。少し黙っておけ」

そう笑いかけるイザークは先程は比べ物にならないくらい艶っぽい。男でこれは卑怯だろと思うが、アスランも満足げに微笑みながら、彼の首に腕を回した。





昨日とは比にならないくらい、貴方を好きだと思う。
毎日発見する、新しいちょっとした貴方の仕草や癖を愛しく思う。


そして、君にまた恋をする。


今も、これからもずっと・・・。




Happy Birthday Athrun vv


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