「おはよう」

耳元で聴こえたいつもより幼い声にイザークは、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

「おはよ・・・、アスラン?」

ぼやける視界に映る見慣れぬ姿に、イザークは瞼を擦りながら何度もその姿を確認する。
だが、どう見ても今目の前にいる人物は、昨夜一晩をともにした男の姿ではない。

「お前、・・・誰だ?」

未だ覚醒しきらない頭で、なんとか現状を理解しようと情報探る。

「アスラン」
「だから、お前は誰だと聞いてる」
「アスラン」

わからない?、と小首を傾げる目の前の子供の姿に、イザークの怒鳴り声が響いたのは数秒後のことだった。



「ふざけるなぁーっっ!!!」





Cleome






「で、どういうことなんですか?」

朝一番、イザークの大声で起こされた面々は、目の前に現れたアスランそっくりな子供を前にイザークに視線を投げかける。

「どういうことも、何も、目の前にいるのがアスランだ」
「だから、そう言われてもなぁ・・・?」
「でも、どう見たって、この子はアスランだろ?・・・な、アスラン」

苦笑するディアッカに、頭を痛めるイザーク。
そんな二人を余所に、ラスティーは膝をついて、アスランと視線を合わせながら微笑みかけた。

「だから、ずっとそう言ってるのに・・・」
「ごめんごめん、だから泣くなよ」
「泣いてなんかないっ!」

むっ、と唇を尖らして、頬を膨らますアスランの瞳には、少し涙が溜まっている。
ラスティーは、お前は悪くないから、と慌ててアスラをあやしにかかった。

「体は子供、知能は大人って、どこかの漫画のようにはいかないみたいですね・・・」

そんなラスティーとアスランの様子を見ながら、ニコルは盛大に溜め息をついた。

目の前にいるアスランと言い張る子供は、話す内容から考えてもアスランのようだった。
昨晩までの記憶もきちんと残っている。
ただ、目覚めたら、この状態だったということらしい。
だが、体が子供になった所為か、どことなく言動も幼くなっている。
そのため、皆アスランに対する対応も、自然と変化することになった。

「まず、朝ごはん食べないとな」
「アスランは、何が食べたい?」
「ロールキャベツっ!」
「朝っぱらから、ロールキャベツはないだろ・・・」
「・・・・っ」
「うっ・・・」
「ほら、イザークがそんなこというから、アスラン泣いちゃうじゃん」
「泣いてないもんっ!」
「ごめんごめん、アスランはこんなことじゃ泣かないもんな」
「アスラン、じゃ僕と朝ごはん食べましょう」

ラスティーが手を繋いで、アスランを食堂へと連れて行こうとするが、ニコルがそれを制してアスランの手をとりテーブルへと促す。

「お前、今アスランを食堂に連れて行こうとしただろう」
「当たり前だろ」
「お前、この姿のままアスランを連れて行くつもりだったのか?なんて、言い訳するつもりなんだ?他にもクルーはいるんだぞ」
「あ・・・」

はぁ・・・、とイザークの盛大な溜息が漏れる中、簡易のキッチンからはいい匂いが漂ってくる。
アスランも、その匂いに機嫌を直したようで、満面の笑みを浮かべキッチンに向かうディアッカに視線を送っている。
ディアッカは、いつの間にか用意したエプロンをつけて、朝ごはんを作っていた。
ニコルは、喜ぶアスランにいろいろと話しかけている。

「お前も混じりたいんなら、行ってこい」
「え・・」
「そういう顔をしている」

イザークが本日何度目かの溜息を漏らすと、ラスティーは苦笑しながらアスランの隣に座った。
幼いアスランが可愛くて仕様がないらしい。
イザークは、楽しそうに話し込む三人を見つめながら、苦笑を漏らすとパソコンに向かった。
ディスプレイに向かいながら、アスランの状態について何か情報がないかといろいろとデータバンクを漁る。
記憶が退化することはあっても、体だけが退化したというものは見当たらない。

「何かわかりましたか?」
「いや」

入れたての紅茶を片手に、ニコルが声をかける。
だが、目の前の文字の羅列に、有力な情報がないことはニコルにもすぐにわかった。

「あいつらは?」
「あの通り」

ニコルが視線を投げるその先には、朝食を食べて元気になったアスランを囲うようにして、ディアッカとラスティーがはしゃいでいる姿があった。

「あいつら、軍隊なんかじゃなくて、保育園かどっかに勤めたほうがいいんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね」

苦笑する二人は、今の状態について軽く情報を整理した後、結局『一日様子を見る』という結論に落ち着いた。

「さぁ、僕たちも遅めの朝食としましょうか?」
「そうだな」

時計を見るといつの間にか、昼食までそう時間がなかった。
イザークの部屋で騒ぐ子供三人を見ながら、イザークはまた溜息をつくのだった。





 + + +





「寝たのか?」
「遊び疲れたんでしょう」

昼食を食べてからも、元気に遊びまくった三人は、お昼寝よろしくソファーに並んで寝息を立てている。

「どうするんだ、コレ」
「さぁ?起きるまではこのままでしょうね」

ニコルは、苦笑しながら三人に毛布をかけると、後はよろしくお願いします、と部屋を後にした。
イザークは、残された状況を見て、もう一度溜息をつくと、疲れた、と自分もベッドへと向かおうとした。

「イザーク・・・」

すると、後から服を引っ張られる感覚に、振り向くと瞼を擦りながら立つアスランがいた。

「どうした?トイレか?」

優しく問いかけると、アスランはフルフルと横に首を振る。

「寝れないのか?」

再度問いかけると、アスランは小さく首を縦に振った。
十分寝てただろ、と突っ込みたくなるのを我慢してイザークは、仕方がない、とアスランの前にしゃがみこむ。

「じゃ、俺と一緒に寝るか?」

イザークがそう言うと、アスランは蕾が綻ぶように、嬉しそうに微笑んだ。
一瞬、イザークはその姿に昨晩までの彼が重なって見え、大きく瞳を見開く。
だが、目の前にいるのは、幼いままのアスランで、イザークは自分に苦笑しながら、アスランの頭を軽く撫でた。

「おいで」

先程とは違い、大きく頷くその姿に、イザークも自然と笑みが零れる。
イザークが両手を広げると、気持ちいいくらい元気に胸に飛び込んでくるアスラン。
イザークはそのままアスランを抱き上げると、一緒にベッドへと沈んだ。
アスランを胸に抱くようにし、いつものように髪を梳いてやると、アスランはすぐに寝息を立て始めた。
その寝顔を見つめながら、イザークもゆっくりと瞼を閉じた。





 + + +





「あぁーあ、おいしいとこ、全部持っていちゃった」
「まっ、しょうがないでしょ」
「結局、イザークが一番なんですね」

ベッドに二人並んで、寝息を立てるイザークとアスラン。
二人が眠りについて暫くしたころ、ニコルが様子を見に来たのだ。
その頃には、ディアッカとラスティーが目を覚ましていて、今の状況に至る。

アスランは、イザークの袖をぎゅっと握ったまま、イザークに寄り添うように眠っている。
そんなアスランをイザークは、大切そうに包み込んでいた。

「このままにしておきましょうか」
「邪魔者は退散ってね」
「・・・なんか悔しい」

唇を尖らすラスティーを宥めながら、三人も静かにその場を後にした。










「イザーク、イザーク・・・」
「・・・ん?」

抱きしめる腕を緩めると、下から覗く顔にイザークはもう一度抱きしめる腕を強めた。

「痛いよ」
「お帰り」
「・・・ん、ただいま」



Fin.





Cleome クレオメ

秘密のひととき・あなたの容姿に酔う・小さな愛

クレオメはフウチョウソウ科の1年草。
原産地は南アメリカ。季節は6〜10月。花の色は、桃、紫、白。

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