まだ、その手の温もりを知らなかった頃。 二人で歩いた雪夜の一日。 重なる手、伝わる温度 「イザークっ!」 背中を追いかけながら、彼の名前を呼ぶ。だが、聞こえているはずの声に振り返ることもなく、イザークはそのまま歩き続けた。仕方なくアスランも走って彼の隣へと並ぶ。 「そこまで嫌がらなくてもいいだろ」 「・・・別に嫌がってなどいない」 「じゃあなんで、待ってくれないんだ?」 「貴様が歩くのが遅い所為だろうが」 「それは悪かったな。で、買出しどれくらいあるんだ?」 じゃんけんで負けて、買出しになった二人。一瞬、あの場の空気が凍りついたのはわかったが、二人にしてみればどうでもいいことだった。建前上、仕方なくといった雰囲気でその場を後にしたが、皆が思っているほどこの二人の関係は悪いものではない。ただ、出会いと最初の頃の言動の所為で、周りが勘違いをしているだけだった。 「あいつら、好き勝手頼みやがって」 そう言いながら、送られてきたメールを見せるイザークに、アスランも苦笑した。 「まっ、その半分もこの時間だったらないだろ。適当にいくつ買って帰ればいいさ」 「当たり前だ」 そのままブツブツと文句を言うイザークを気にしながら、アスランは空を見上げた。 真っ暗な空に散らばる星々。 人工的な光もこうやって見ると悪くないものだと思える。 「今日は、ホワイトクリスマスらしいぞ」 アスランが空を見上げていると、イザークも空を見上げながら不意にそんなことを言った。 「雪、降るのか?」 「さぁな。ホワイトってことは、降るんじゃないのか?」 プラントの気象予報は地球のそれとは違い、確実性のあるものである。何故かと聞かなくても、全て人工的なものであるのだから、予報が外れるわけがない。予報ではなく、予定なのだから。 「ふーん。それじゃ、寒くなるな」 コートのポケットに手を突っ込みながら、アスランは顔をマフラーに埋めた。 そうこう言いながらもコンビニに着いた二人は、メールを見ながらカゴにものを入れていく。暫くして、あっという間にカゴいっぱいになった荷物の会計を済ませ店を出た。 イザークは終始文句を垂れながら、アスランはそんなイザークを見ながらずっと隣で微笑んでいた。 「うわっ、寒っ!」 コンビニを出ると、外は先程よりぐっと気温が下がっていた。予報通り、雪も舞っている。 「本当に、降ってるな」 「あぁ、久しぶりに見る」 「今年は初めてだよな」 コンビニ袋を片手に、雪の降る中、家路を急ぐ。 直に触れる風の冷たさに、アスランは手袋をしてこなかったことを少し後悔した。 「・・・寒い」 片方はコートのポケットに入れて、片方は時々吐息をかけながら寒さをしのぐ。気休め程度だがしないよりかはマシと、少しいつもより前かがみになりながら歩いていた。 「ったく」 そんなアスランの行動に、イザークは小さく溜め息をついて歩みを止めた。 「おい」 前を行くアスランを呼び止めて、自分がはめていた手袋の片方を差し出す。何のことかわからず目を丸くするアスランに、押し付けるように片方を渡すと自分は外したほうの手をコートのポケットに突っ込んだ。 「いいのか?」 何も言わないイザークに、アスランは困りながらもそのさりげない優しさに笑みを零し、その手袋をはめた。イザークもそれを確認すると小さく微笑む。 「忘れるお前が悪い」 「ごめん。・・・助かる」 先程より、縮まった二人の距離。 並んで歩くと時々肘が触れる。 離れればいいのだが、何となくこの距離が心地よく二人とも離れようとはしなかった。 手を伸ばせば触れられる距離にあるのに、まだその勇気はなくて。 それでも伝わる温もりは、優しく自分の心を包んでくれる。 「イザーク」 だから、クリスマスなんていうイベントを言い訳に、少しだけその距離を縮めてみたいと、ふざけてその手を握った。 イザークは驚いて顔を真っ赤にして、アスランを見返している。アスランもその視線が恥ずかしくて、つい俯いてしまった。 「・・・アスラン」 触れる手は冷たく冷え切っていて、少し震えていた。 何となくその手が愛しく思えて、力を込めて握ってみると、相手は頬を赤く染めた。 その姿に自分もつられるように顔が熱くなるのを感じる。 「ったく」 イザークは苦笑しながら、繋ぐその手をそっと自分のコートのポケットに入れた。距離は先程よりも縮まり歩きにくくもなるが、今日ぐらいはいいだろうと、そう思えた。 慣れないその温もりに、心臓が早鐘のようになる。 そのまま歩き続けた寮までの道のりは、行きとは比べものにならないほど長かった。 end |
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