「よかったら、これ使って。」 朝は太陽を覗かせていた空は、急に気分を変えたのか雨の衣を纏っていた。 アスランは傘を持って来ていなかったので、エントランスで雨脚が弱まるのを待っていた。 そんな時、突然ある女性から声をかけられた。 「えっ?でも、あなたは・・・」 「あっ、私のことは気にしないで。連れにいれてもらうから。」 アスランは、急な出来事に唖然とするしかできなかった。 「私の名前はリリィ。ここの2回生よ。いつも本館の近くをうろうろしてるから。 でも、面倒くさかったら、ここの傘立てにいれておいて。じゃあね。」 用件だけを伝えると、リリィという女性は、返事も聞かずに去って行った。 アスランはただ、彼女の後姿を見ることしかできなかった。 翌日。 リリィという女性を探すために、彼女が話していたように、本館の近くをうろうろしていた。 さすがに、傘立てに返すのは憚られた。 しかし、一向に彼女が現れる気配はなかった。 腕時計を見ると、午後の講義まであまり時間がない。 「・・・諦めるかな。」 そう呟き本館に背を向けた、その時だった。 「あっ!」 後ろから、聞き覚えのある声がした。 アスランが振りかえると、そこには彼女がいた。 笑顔で、こちらに手を振っている。 アスランは軽く頭を下げて、彼女のもとへ駆け寄った。 「わざわざきてくれたんだ。傘立てでもよかったのに。」 「いえ、俺のほうこそありがとうございました。助かりました。」 そう、よかった。と、彼女は優しく微笑んだ。 「じゃ、俺はこれで。」 「あっ、そういえば、あなたの名前まだ聞いてなかったわよね。」 「1回生のアスラン・ザラです。」 「アスランくんね。よろしく。」 「じゃ、俺は・・」 彼女の勢いに負けつつも、午後の講義のためその場を離れようとした時、隣から男の声がした。 「よっ。誰と話してんの?」 声の主は、金色の髪が印象的な優しい声色の人物だった。 「あっ、ディアッカ。ほら、この子が昨日傘貸した子。」 「こいつが?」 「アスラン・ザラっていうんだって。」 「だとよ、イザーク。」 会話からこの人たちが、昨日彼女が言ってた連れなんだろう。 一人は、彼女に話しかけてきた金髪の人で、 もう一人は・・・、 もう一人は、とても綺麗な人だった。 「あの・・」 アスランが声をかけるまで、彼ら、正しくは彼女の話は終りをみせなさそうだった。 次に講義が控えていることもあり、アスランがおずおずと声をかけると、 彼女は、「ごめんね。」とアスランを気遣いながらも少しあたふたしていて、 友達の二人もクスクスと彼女の行動に微笑んでいた。 アスランは、もう一度お礼を言ってその場を離れた。 同い年と勘違いしそうなくらい可愛らしい先輩に、その姿を見守るふたりの先輩。 とても仲がよさそうに見えた。 そして、何よりも瞳に焼きついたのは彼――イザークだった。 透き通るような白い肌。 彼女に向かって優しく細められる蒼氷の瞳。 風に靡く銀糸のような髪。 男性に言うのは失礼かもしれないが、本当に綺麗な人だった。 この日、アスランと彼女たち――イザークは出会った。 確かにあの時、彼に見惚れている自分がいた。 Prologue. 「始業式が雨だなんて、なんか幸先悪いな・・・」 降り止む気配のない、空を見上げながら、アスランは小さく呟いた。 今日は4月7日、始業式である。 新学年が始まろうという日に、雨というのも、教師からしても、あまり嬉しくないものだった。 咲いた桜の花もこの雨でほとんど散ってしまうだろう。 「なんだ、そんな顔をして。」 止まない雨にひとりゴチていると、頭の上から声が聞こえた。 その声の主は、ほら。と、コーヒーを差し出すと、隣に立った。 「いや、雨だなって。明日は入学式もあるのにさ。」 「まぁな。明日は晴れるといいが。」 明日は、午後から入学式がある。 それまでには、なんとか止んで欲しかった。 「そういえば、昼はもう済んだのか?」 「いや、まだだけど。」 「なら、今から食べにいくか?」 「そうだな。」 午前の授業を終えた二人は、少し遅めの昼食をとりにいくことにした。 「何食べようか?」 「お前は何か食べたいものでもあるのか?」 「いや、特に無いな。イザークに任せる。」 「じゃあ、いつものとこだな。」 結局、雨の中、遠出するのは面倒なので、近場のラーメン屋に入った。 「なぁ?」 「・・ん?」 「雨、明日には止んでると思うか?」 「さぁな?なんなら、てるてる坊主でも作るか?」 「俺たちが?」 二人は、顔を見合わせ笑った。 他愛もない会話で笑い合う。 そういう時間がとても幸せだった。 大学の頃からイザークに憧れ続けて、恋をして、諦めて、それでもまだ好きで・・・。 偶然、彼のいる高校に配属されたけど、未だに想いを伝えられず、この場に至る。 いつになれば、君にこの想いを告げられるんだろうか。 中途半端なまま、俺はまた新しい春を迎えていた。 |