PartT 01.


「起立、気を付け、礼。」
「ありがとうございました。」

本日最後の授業が終了。
残りは、終礼だけなので、皆、緩みまくっている。
教室中から、疲れた〜。とか眠たい。という声が聞こえてきた。

シンは、ん〜っ。と、背伸びをし、ゆっくりと帰る準備を始める。


「なぁ、レイ?」

カバンに教科書を入れながら、シンはレイに話しかけた。

「何だ?」

レイも同じように準備をしながら答える。

シンとレイは幼馴染ということもあり、授業中隣同士になることが多かった。
結局、幼少時代から共に過ごし、高校三年間はずっと同じクラスだった。
もう二人が同じクラスになるのは何回目だろう。

「あのさぁ、」
「先生が来たぞ。」
「えっ?」

シンが何かを言おうとした時、タイミング良く二人のクラスの担任であるアスランが現れた。

レイの声にシンも慌てて前を向く。

「まず、この前配ったプリントを集めます。まだ書けていない人は、明日必ず持ってくるように。」

他の先生ならシンはあのまま話を続けていただろう。
だが、アスランが前に立っているときだけは違っていた。
シンは嬉しそうに前を向いて、話を聞いていた。

「あと、少し先の話なるけど、6月の文化祭の実行委員会が今週から始まります。
昨日決まった委員の人は忘れずに参加するように。
それにあわせてクラスの展示等も決めていきます。
来週のホームルームの時間が最初の時間になるので、
個人個人で少し考えておくように。連絡は以上です。」

正しくは、アスランを見つめていたといったほうがいいのかもしれない。

「起立、気を付け、礼。」
「ありがとうございました。」

それだけ、アスランを見るシンの目は違った。



「で、さっきの話は何だったんだ?」

教室からアスランが出ていったのを確認してから、レイは話かけた。
たぶんアスランがいる間、シンの目はアスランにいったままだろうから。

「えっ?」
「どうでもいい話なら、帰るぞ。」

シンはすっかり忘れていたらしい。
抜けた返事が返ってきた。

「ぇ、あっ、そう!思い出した、思いだした。」
「で、何だったんだ?」

レイが聞き返すと、シンは少し真剣な面持ちで答えた。

「先生のことなんだけど。」

『先生の・・・。』この言葉だけで、レイには次に続く内容が想像できた。



「やっぱさ、先生って恋人いると思うか?」


やっぱり。心の中でレイは小さく溜め息をつき、

「さぁな。いるんじゃないのか?」

と、適当に答えた。
実際、恋人がいてもおかしくないくらい綺麗な人だ。
それくらいは、レイにもわかっていた。

「やっぱそうだよなぁ。」

シンはあからさまに、残念そうな顔をした。
そして、サンキュ。と、小さく笑う。


シンが、アスランに興味を持ち始めたのはつい最近だった。
いつも、ほとんどの授業でうとうとしているシンが、アスランのときだけは態度が違う。
珍しいなと最初は思っていたが、そのうちシンが黒板ではなく
アスランをずっと見ていることに気が付いた。
どれだけの感情を持っているかは定かではないが、好意を抱いているのは確かだった。
近くでシンを見ていたレイにとって、シンの変化は顕著なものだった。


「レイ、帰ろうぜ。」


それに自分がどう関わることになるかは別として、
シンが傷つかなければいいなどと、レイは先の心配をしていた。


「ああ。」


ただ、それが杞憂であればいいと。







 + + +








『いるんじゃないのか?』


何となくわかってはいたが、言葉にされるときついものがあった。


シンがアスランのことが気になりだしたのは、つい最近のことだった。
きっかけは本当に些細なこと。


授業が終ったあと、シンは他の先生から呼び出しがあり、
職員室に顔を出した後だった。
ダラダラ廊下を歩いていると、ちょうど目に入ってきたのがアスランの姿。
誰もいない音楽教室で一人、グランドピアノの前に立っていたアスランの表情が
シンは忘れられなかった。

切なそうで、苦しそうで、泣いているわけではなかったが、とても辛そうな。
グランドピアノに何か思い入れがあるのか、それとも弾いていた人になのか。
ただ、アスランはずっと見つめていた。
そしてアスランは、ふと雨が降っている空を見上げて、哀しげに笑った。

どうして、あんな哀しい笑いをするのか。
自分たちが楽しくて笑う時の表情とはまったく違い、
アスランの表情はどこか自嘲的なように、シンには見えた。

シンにとってアスランは、親しく話すほど関わりがあったわけでもなく、
授業を持ってもらったのは2年になってからのことだった。
"学年の先生"
これが一番しっくりくるアスラン・ザラという先生の位置付け。

だけど、あの時のアスランを見たとき、
"守ってやりたい"
"あんな表情をして欲しくない"
と、シンは自然とそう思った。


『サンキュ。』


シンは、落ち込んで表情をしていたであろう自分をごまかすために笑って礼をいった。
だけど、レイのことだから気づいているとだろう。

レイは、特別そのことについては聞くことはなかったが、
シンがアスランに対して抱いている感情に気付いているだろう。
それでも、ちゃんと自分からこのことをレイだけには話さないとな、とはシンも思っていた。
いつになるかはわからないが、もう少ししたらこの気持ちに自信が持てそうだから。
そうしたら、きっと。


『レイ、帰ろうぜ。』


家族を失ったシンにとって、レイは特別な存在なのだから。





 

 

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