PartT 02.


「あっ、イザーク。」


シンが下足から出ようとしたとき、後ろから聞きなれた声がした。

「文化祭のことなんだけど、今週・・・」

振り向くと、アスランとイザークがいた。


(先生って、ジュール先生のこと名前で呼んでるんだ・・)


シンは、アスランのイザークに対する呼び方が、
他の教師を呼ぶときと違っていることに気が付いた。
だけど、そんなことは頭の片隅にいってしまい、目線はアスランに向いていた。


「あれ、お前のクラスの生徒じゃないのか?」
「えっ?あっ、ほんとだ。」

アスランはイザークの言葉で、シンのほうを向いた。
シンは、慌しく頭を下げてレイのもとへ行ってしまった。

「慌しい奴だな。」
「そうだな。」

シンはレイのところに駆け寄ったあと、
もう一度後ろを振り向くとアスランはもうシンのほうを向いてはいなかった。
イザークと一緒に楽しそうに笑っている姿が目に入る。


(あんな表情もできるんだ・・・)


いつもは違う柔らかい笑みに一瞬シンは見惚れていた。


「シン、行くぞ。」

レイの呆れたような声に、シンはまた慌てる。

「あっ、ごめん。今行く。」

小走りでレイの隣までいくと、いつも通り他愛もない話をしながら帰路についた。





頭の中でシンはずっとアスランのことを考えていた。
あの笑顔のことを。
そのとき、アスランが誰と話していたことや、
姓ではなく、名を呼んでいたことは、全く気にもしていなかった。
ただ、あのとき、アスランの笑顔が見れたことに、シンは喜びを感じていた。










 + + +











「じゃあ、今から文化祭のバザーについて説明します。」

シンは、眠たいことを必死に我慢していた。
アスランの前では、恥ずかしい格好見せられない。
ただ、それだけのために。

「俺たち3年は、毎年恒例のバザーです。
中身については今週末までに一次案をまとめて、俺が委員会に持っていきます。
それから、もう一回練り直して、最終決定が来週末になります。」

今朝、文化祭の実行委員会があった。
本当ならば放課後の予定だったのだが、担当の教師の都合がなんとかで朝にずれ込んだ。
いつもよりも30分以上も早く学校に登校し、眠い話を聞かされたら、どうなるか・・・。
シンでなくても、一般の神経の持ち主ならわかることだろう。

「何かいい案がある人は手を上げてください。」

シンは、シャーペンで手の甲を突っつきながら睡魔と闘った。
委員会にはアスランも来ていたため、寝ようにも眠れない。
何よりもシン自ら立候補したんだので、責任も果たさないと。
立候補の理由はさておき。



一人が手をあげるとすぐに、黒板は埋まっていった。
シンたちが通う聖学園では、毎年1年が展示、2年が演劇、3年はバザーとなっている。
去年は去年で盛り上がったのだが、3年は最後ということもあって皆盛大に盛り上がっていた。



「シン。」

黒板が一杯になるころ、レイに声をかけられた。

「どうしたんだ?」
「先生が呼んでる。ここは俺が代わるから。」
「うん。頼む。」

実行委員がシン一人のためクラス委員のレイも手伝っていた。
何より、シンが心許ないためだからとは誰も言うまい。

「先生。」

シンが教室の後ろにいたアスランのもとへ行くと、
順調だな。とアスランは優しく微笑んだ。

「は、はいっ。」

シンは一瞬ドキッとして、返事に戸惑う。
アスランが、シンにこういう表情を見せるのは初めてのことだった。

「このあとだけど・・・」

あたふたするシンを前に、アスランは淡々と話を進めていた。
シンはというと、自分の世界に入ってしまっていた。

(ホームルームが終ったら、書類をまとめて委員会に持っていかなければならない。
まとめは、レイがいるから安心しているが、実際クラスまとめなきゃいけないのは俺だし。
で、あとは・・・)


「で、来週のホームはどうする?」
「えっ、あ、来週は・・・」

アスランが言った内容に頭がついていかない。
シンは、慌てて思考を元に戻そうとするが、上手くいかずあたふたしている。


「製作準備でいいかな?」
「は、はいっ。」

結局、シンは返事をすることだけで精一杯だった。


(それにしても、眠い・・・。)


「シン。」

仕事を任せきりのため、レイの元に戻ろうとすると、呼びとめられた。
振り向くと、

「眠たいみたいだな。」

と、アスランは軽く笑い、お疲れ様。と労いの言葉をシンにかけた。
シンは少し嬉しくて、軽く頭を下げた。







 + + +






「こんなもんでいいかな?」

あれから、二人は終礼を使ってなんとか多数決をとり、
めちゃくちゃだった案をいくつかに絞った。
実際のところ、ほとんどレイに任せっぱなしといった感じで、
シンはメモをとるだけだった。
シンは、レイの手際のよさに圧倒されていた。

「そんなものだろう。結局、定番になったな。」
「だな。飲食店と女装や仮装なんてあわせたら、女装喫茶ぐらいしか出てこねぇって。」

多数決の結果、飲食関係・女装や仮装等が圧倒的に多く、
それらをあわせたら『女装喫茶』がぐらいしか浮かばなかった。
さすが、男子校といった感じか。
運動部が多かったので、笑いに走ったのかもしれないが。

「とはいえ、一次案はこれでできあがりだな。あとは、他のクラス次第。」
「たぶん、笑いに走るのは俺らのクラスぐらいだろ?面子からして。」

このクラスは本当に笑いの面子が揃ったって言うか・・・。
ノリのいいやつが多いおかげで、より一層もりあがりそうな感じがした。

「あとは、お前が委員会にいけばわかることだ。この後だったか?」
「うん。4時半から。先帰ってていいぜ。」

時計を見たら、もうすぐでシンは慌てて用意を始めた。

「いや、俺も他に少し用事があるから待ってる。」
「なら、終ったらメールいれるな。」

シンは教室を出ながらそう叫ぶと、レイは、わかった。と微笑んだ。








 

 

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