| PartU 01. テストも終り、高校は長期休暇へと入った。 季節は、太陽は眩しく輝き、蝉の音が煩わしくなる夏。 「明日こっちを発つ。まだ、どうなるか全くわからないが、精一杯やってくる。」 イザークは空を見上げながらそこに居るはずの彼女に話しかけていた。 晴れ渡る青空が目に眩しい。 「やっぱり、ここに居たか。」 後ろからの声に振りかえると、金色の髪を風に靡かせながらこちらにくる男が見えた。 「ディアッカか。」 イザークはまったく興味がないとでもいうような口調で彼の名前を呼んだ。 「せっかく近くまで来たから連絡してやったのに、携帯にも出ねぇから来てみたけど。 来てみて正解だったな。」 そこは小さな丘の上で、空と海の蒼が一度に眺められた。 「何の用だ?」 「いや、特にないんだけどよ。明日発つんだろ?だから、ちょっとした激励にね。」 「けっこうだ。」 「なんだよ、人のせっかくの好意をよ。ありがたく受け取っとけ。」 二人は顔を見合わせ軽く微笑むと、また互いにその景色を楽しんだ。 薄っすらと塩気を含んだ風が二人の間をすり抜けていく。 「なぁ、イザーク。」 ディアッカが呼びかけると、イザークは相変わらず不機嫌そうな顔で振り返る。 その表情にディアッカは苦笑したあと、少し真剣な面持ちで言葉を続けた。 「お前、それ、いつになったら外すんだ?」 あの時からずっと変わらず左手の薬指に光り続けているもの。 彼と彼女の想いの証であるその指輪。 「もう、十分過ぎるほど想ってきただろ?」 誰かに何かを言われたから外すものでもないだろうが、これはある意味彼女の意思でもある。 そう、これは彼女の想いでもあるのだ。 何を言っている。とでもいいそうな不機嫌な顔でイザークはこちらを見返した。 彼にとってはそれほど大きな意味を持つものなのである。 (そんな簡単には無理だよな・・・。) つい最近、誰かが考えたことをディアッカも考えていた。 (・・・お前ばかりじゃないんだぜ。) 「まっ、ゆっくりあっちにでもいって考えてこいよ。夏休みはまだ始まったばかりだしな。」 その後、イザークはディアッカに一言も声をかけることなくその場を去って行った。 「例えば、もし・・・。いや、お前は幸せ者だな。リリィ。」 例えばもし、イザークではなく自分がリリィの恋人であり、婚約者であったのなら、 こうも頑なにリリィを愛し続けていられたのだろうか。 イザークの真っ直ぐな想いに、少し苛つき、ほんの少し羨ましいと思うディアッカだった。 蝉の音だけがそこに夏を教えていた。 + + + (ふざけてる・・・。いきなり何を言い出すんだあいつは。) ゲートを通りながらイザークの顔はますます不機嫌になっていった。 昨日、激励だと言ってディアッカはイザークを尋ねていた。 そこでイザークは酷く機嫌を損ねたのだった。 (指輪を外したらどうかだ。ふざけるな。) 誰がどんな思いでこの指輪をつけているかぐらい、ディアッカなら知っているはずだった。 それでは何故、ディアッカはあんなことを言う必要があったのだろうか。 イザークは、頭の中でいろいろなものが爆発しそうだった。 ニューヨークに着いたら自分の曲を聴いてもらわなければならない。 それに、この出来次第でイザークの人生は大きく変わってくるのだ。 こんな大事なときに何を考えろと言うのだ。 搭乗してからもこの苛々がおさまることはなかった。 貧乏揺すりをするでもなく、不必要に何かのリズムを刻むでもなく、 イザークはただ、仏頂面のまま空を眺めていた。 周りに漂うオーラらしきものは、彼に誰も近づけない空気を放っていた。 暫くして、ふと、何かを思い出したようにイザークは鞄を開けた。 少しでも心を考えを落ち着かせようとあるスコアを取り出したのだ。 Dear Lily 一番上に走り書きのようにかかれた文字。 その曲の題名はまだ決まっていなかったが、 誰のために書いたのかだけはすぐにわかるようになっていた。 ちゃんと自分の腕が認められたら、この曲に題をつけて彼女に捧げるつもりだった。 今は亡き人となったが、それは変わらない。 この夏、この曲とともに自分が認められたら・・・。 頭の中で自分が演奏している姿を思い描く。 そこにはディアッカがいて、アスランがいて、そして、リリィが笑っている。 純粋に音楽というものを楽しめていた時期と重なっているような気がした。 イザークは少し落ち着いたのか、スコアを大事そうに鞄の中へ戻し、 ゆっくりと瞳を閉じた。 ニューヨークまではもう少し時間がある。 |