| PartU 02. 「お〜いっ!イザーク!!」 空港に着くとそこにはディックがいた。 「ようこそニューヨークへ。元気にしてたか?」 「あぁ、なんとかな。そっちも元気そうだな。」 久しぶりに会った友人は、相変わらず元気で、イザークもつられて笑ってしまう。 イザークは空港を出るまで、何年ぶりの再会を暫し楽しんだ。 「ホテルはもう決まってるのか?まだなら、俺の部屋にこいよ!お前に見せたいものがあるんだ。」 「あぁ、ならそうさせてもらう。で、曲のことだけど。」 「それなら、明日の朝だ。今日は、ゆっくり休めよ。」 「助かる。」 やけにテンションの高いディックに少し圧倒されながらも、イザークは笑顔が自然と零れた。 先程まで考えていたことは、もうどこかにいってしまったようだ。 イザークにとって、今は目の前にいる友人の勢いについていくのがやっとだった。 他のことを考える余裕はなさそうだった。 ディックのアパートに着くと、早速色々なものを見せられた。 日本では手に入らなかったレコードやイザークの好きなバンドのCD。 どこでこれだけ集めてきたのか?と驚くぐらい珍しいものも多かった。 イザークがニューヨークに来ることがわかってから集めたのだろうか。 それにしても、すごい量のものが部屋中に広げられた。 イザークも興味津々な様子でそれらを見ていた。 その夜はお互いの近況や昔話で盛り上がって、二人は眠りについた。 + + + 次の日、あれだけ騒いだのに朝はとても爽やかだった。 緊張もあったが、それよりも他の感情のほうが大きかった。 わくわくするというか、まさに怖いもの知らずの子供のような。 イザークは、珍しく浮かれていた。 「おはよう。」 「おはよう。今日だけど俺もついてくから。安心しろよ。」 「あぁ。」 簡単に朝食を取るとディックの家から歩いていけるという小さなホールに向かう。 そこに彼の知り合いも来ているらしい。 「よっ!スティーブ、ケヴィン。」 扉を開けると客席のほうに2人座っていた。 ディックによると二人とも楽団にはいっているとかいないとか。 どちらにしろ、イザークの演奏を評価する人物であることには変わりない。 「やぁ、ディック。」 「おはよう。そちらがイザークだね。」 「おはようございます。」 「いいよ、そんなに硬くならないで。もっと楽に行こう。」 そういうと、二人は軽く微笑んだ。 どうも、ここにはディアッカみたいなタイプの人間が多いらしい。 ディックにしろ、この二人にしろ、イザークにはよく似ているように思えた。 「じゃ、調整して用意が出来たら呼んで。曲は何でもいいから。君の好きなものでいいよ。」 「それで、俺たちが評価する。これでも俺たちはちょっとは名の通った人間のはずだしね。」 言葉は軽かったが、イザークが調整したり練習する様を見る目つきはプロのものだ。 彼らが言うことはあながち間違っていないようだった。 先ほどの浮かれていた気分は消え去り、程よい緊張が体を包む。 「では、宜しくお願いします。」 イザークは軽く礼をして、演奏し始めた。 静かなホールに優しい音色が響く。 + + + 「じゃ、あとは自由に使って。ここは、演奏会とか何かが入らない限り自由に使っていいから。 あっ、使う前にはちゃんと、入り口のじいちゃんに一言言ってね。」 それだけ言い残すとディックは、じゃあ。と仕事に向かった。 ケヴィンやスティーブも同様に、お疲れさま。と出ていった。 今、ここはイザークしか居ない。 数分前の出来事。 イザークが、演奏を終えて彼らのほうを見ると、彼らは小さな拍手を送った。 『お疲れ。すばらしかったよ。』 『うん。よかった。』 ディックのほうは相変わらずのテンションで、さすがだ。と喜んでいた。 『ありがとうございました。』 自分でもなかなかの出来だったと、イザークも自信を持っていた。 満足な出来に、笑みが零れそうになる。 あとは、結果を聞くだけ。 『ねえ、イザーク。』 そう呼ばれて振りかえると、ケヴィンが少し首を傾けてこちらを見ていた。 『最近、何かあったかい?哀しいこととか怒ったことか・・・』 先程の言葉とは打って変わって、残念そうな声だ。 『どう言う意味ですか?』 何かおかしなことでもしたのだろうか? 自分では覚えがないため、イザークは一気に不安になった。 『いや、何となく音の印象が違ったというかね。実際に、先程の演奏はすばらしかったよ。 俺たちのほうからもちゃんと上のほうに伝えておく。だけど、ちょっと気になってね。』 はぁ。と、相槌を打つくらいしかイザークには出来ない。 確かに、ここに来る前、日本ではディアッカからあんなことを言われて、 腹を立ててはいたが、ここまで引きずってきているはずもなかった。 『俺たちは君の大学時代の演奏風景を見せてもらったんだけど、 昔と今と何か大きく変わったことはあったかい?』 大きく変わったことといえば、一つしかなかった。 『婚約者が亡くなったことが一番大きく変わったことですが。』 そう言うと、すまない。と彼らは謝った後、 『もしかして、この曲は彼女のための曲かい?』 『はい。』 『だからかな?』 『うん。』 イザークがそう答えると二人とも何か納得したようなやり取りを行った後、 すまなかったね。といってここを後にした。 「って、どうしたらいいんだ。いったい・・。」 音の印象が違うといわれても・・・。 感情が音を通して現れることはあるが、そこまでイザークの心が乱れていたわけではなかった。 大学時代からなら変わっていてもおかしくないような気もするが。 もしかしたら、練習が足りなかったか? 頭でいくら考えても答えが出るわけでもなく、結局イザークはただひたすら練習することにした。 ここには、2週間ほど滞在する予定。 観光もしたいと思っていたが、すべて練習に代わることとなってしまった。 |