| PartW 07. ある晴れた日。 空を仰ぐと、太陽がとても眩しい。 まるで、誰かの想いのようで、目を逸らしてしまった。 普段より少し早く学校へと向かう。 職員室には、まだ教師の姿も少なかった。 グラウンドで、朝練をしている生徒の声が響いていた。 「おはようございます。」 「おはようございます。今日は、いつもより早めなんですね。」 「今日だけですけど。」 隣に座る同じ学年の教師と軽く挨拶を交わす。 そして、AO入試や推薦が迫ってきていたので、お互いのクラスの状況を確認しあった。 「今年は、順調に進んでくれればいいんですけど。」 「そうですね。」 クラスごとに悩みは尽きないようだった。 気が付けば、時計の針はいつものアスランの到着時間を示していた。 それなのに、イザークの姿を探しても彼はどこにもいない。 この時間に彼が来ていないのは、珍しいことだった。 「そういえば、ジュール先生来てませんね。」 隣の教師は、アスランと同じ学年であり、イザークと同じ教科を担当していた。 「ジュール先生なら、今日はお休みですよ。行かないといけない所があるとか・・・。」 「そうですか。ありがとうございます。」 (行けないといけない所・・・?) いくつか候補となる所を考えてみる。 ディアッカの所か。 それともリリィの所か。 どちらにしろ、イザークの顔を今日一日見なくてもいいことに、アスランは少し感謝した。 不安定なまま彼と接することは、自分にとって辛いだけではなく、 イザークにも心配をかけてしまう。 現に、先日も心配されてしまったばかりだった。 (さっ、俺は授業に行くかな?) 周りの人にまで気が配れるくらい、余裕があるわけではなかった。 + + + イザークは、リリィの墓に来ていた。 渡米する前に、自分の彼女への気持ちをもう一度、確かめるために。 「今週末、アメリカに発つことになった。」 アメリカで言われた言葉。 いくら考えたところで、答えなど出てくることはなかった。 ただ、イザークにとってリリィがとても大切な存在であるということ以外には。 「お前は、もうここにいないんだよな・・・。」 当たり前のことなのに、確かめずにはいられなかった。 そして、口にして少し傷つく自分に自嘲的な笑いが漏れる。 今でも、彼女が笑って嘘だと言いながら、その十字架の影から出てくるような気がしていた。 笑い話にもならないが、心の片隅でそう信じて止まない部分があるのだ。 否定しても、否定しきれない自分自身の弱い心。 そう、リリィはもうここには居ない。 自分たちとは別の世界に居るのだ。 頭ではわかっているつもりでも、 現実世界と死後の世界との境界線を未だにイザークは引けずにいた。 その境界線を曖昧にして、誤魔化しながら生活してきた。 太陽が眩しくて、左手をかざすと、指輪が光った。 リリィとペアだった指輪。 彼女への想いの証だと思っていたそれ。 だが、それはただの自分への戒め。 リリィに何もしてやることができなかったことを、イザークが片時も忘れないように。 無力な自分を、忘れないように。 『いつになったら外すんだ?』 ディアッカが言った言葉が木霊する。 いつになったら外せるかなど、イザークにもわからなかった。 だが、今ここでこれをはずして、アメリカに行くことなどイザークにはできない。 そんな勇気を持ち合わせてはいなかった。 もう少し、もう少しだけ、この指輪とともに・・・。 それがたとえ、縋っているだけだとしても。 「・・・ケジメをつけてこようと思う。」 リリィへの想い。 リリィがくれた言葉。 そういうものを全てひっくるめて、自分がどうしたいのか、自分がどうするべきなのか、 確固たる自分自身をもう一度・・・。 そして、その先に見つけた光が、自分にとっての光となるはずだから。 「行ってくるよ、リリィ。」 ここにまた戻ってきたとき、もっと大きな人間になれていればいいと思う。 リリィのことや全てのことを真っ直ぐに受け止められるような、大きな人間に。 そうすれば、この指輪の居場所もきちんと決まるはず。 全てを受け止めた上で、イザークはあの曲を弾きたかった。 この曲が奏でるメロディーが哀しみだけにならないように。 あの頃と同じ、想いが届くように・・・。 「そして、その他の世界とやらも拝んで来ようと思う。」 何が起こるか分からない、その新しい世界を。 そう言い残すと、イザークはその場を去った。 細く白い煙が棚引いていた。 |