| PartW 08. 時が過ぎるのは、はやい。 そう感じるときは、過去に何度もあったはずなのに。 未だに、そのことを覚えられずにいる。 「おはよう。」 「おはよう、アスラン。」 職員室前の廊下で、偶然すれ違った。 交わす言葉は、普段通り当たり障りのないこと。 そう頭で考えながら、アスランは言葉を続けた。 「昨日はどこかに行ってたのか?休みだって聞いたけど。」 「あぁ。昨日はリリィのところに行ってきたんだ。」 「そっか。リリィのところに・・・。」 返ってきた言葉に、アスランは言葉を返すことができなかった。 予想していた返答のはずなのだが、彼女の名前が出た途端、 アスランは頭が真っ白になってしまった。 イザークは、急に黙り込んでしまったアスランに、どうかしたのか?と尋ねるが、 いや、何でもない。とアスランはそのまま職員室へと入ってしまった。 普段と違うアスランの行動に首を傾げながらも、イザークも後に続くように職員室へと入った。 もう少しで、1時間目の予鈴が鳴る。 アスランは教室に向かいながら、ふと晴れ渡る青空を眺めた。 「いい天気だな。」 学生の頃は、こんな晴れた日には、講義をサボって芝生の上で寝転んでいたっけ。 なんて、昔のことを思い出す。 そのまま、視線を下ろすとちょうど職員室が視界に入った。 既に音楽室に向かっているためか、イザークの姿は見えない。 普段なら淋しく感じるところだが、今日のアスランは逆にほっとしていた。 (ムズカシイ・・・) 普段通りにと気を、遣えば遣うほど言葉は上手く出てこず、表情は硬くなる。 結局、耐えられずに視線を外してしまうので、イザークに心配されてしまうのだった。 アスラン自身もよくわかっているのだが、どうしようもない。 「はぁ・・・」 自分の教室の前に立って、大きく溜め息をついた。 このドアを潜れば、その向こうにはシンが居る。 あの告白から数日が経ったが、彼の言葉は日に日にアスランの心を締め付ける。 ここに来てから誰にも話していなかったことを、 否、ディアッカとリリィにしか話していなかったことを、 気付かれないようにしてきたことを、シンだけには気付かれてしまった。 そして、その彼に向かって、自分の口でアスランは隠していた想いを言葉にしたのだ。 そのことで、一層意識してしまっているアスランがいた。 (いつも通り、いつも通り・・・) 頭の中で反復する。 自分は大丈夫なのだと。 「おはよう。」 明るく挨拶をしながら、教室のドアを開ける。 そして、教卓の前に立ち、授業を始めた。 「じゃ、先週の宿題を集めるから、後ろから順に前に回してきて下さい。」 シンがあの日のことを誰かに話したり、そのことで冷やかしたりしないことは、 十分アスランにもわかっていた。 だが、どうしても気になってしまった。 彼の言葉も。 彼の表情も。 彼の想いも。 すべて自分と同じものだから。 本日、午後から離任式が行われる。 イザークがここに来るのも今日が最後。 彼は、明日アメリカへ発つ。 どうすればいいのか。 このまま、彼を送り出してしまうのか。 答えは出ぬまま、ただ、時間だけが過ぎていった。 |