| PartX 01. 降り続ける雨は、止むことを知らず、強さを増していく。 まるで、誰かの想いと重なるように。 「どうしたんだ?」 アスランは、突然のシンの呼び出しに動揺を隠せないでいた。 この前のこともあり、二人きりで居ることに違和感を感じてしまう。 生徒と教師という関係に変わりはないはずなのだが、明らかに違うものがあるのだ。 そのためか、アスランは真っ直ぐシンのほうを見ることが出来ないでいた。 そんなアスランとは逆に、シンはとても落ち着いていた。 自分と視線を合わそうとしないアスランに冷たい視線を送る。 そして、今感じている気持ちをそのまま言葉にした。 「伝えないんですか?」 何を?、と聞き返さずとも、二人の間ではそれだけで充分であった。 『伝える』ということが何を意味するのか、『誰に』伝えるのか、わからないはずがなかった。 だが、アスランは敢えてそのことから話を逸らすように、 何がだ?、と答えた。 「ジュール先生、今日で辞めるんですよね?」 目の前に迫ってきているイザークとの別れの日。 変わろうとしないで、目の前の現実から目を逸らすアスランの姿勢。 シンの中で、落ち着いたはずだった苛立ちがまた湧き上がってきた。 「もう二度と会えないかもしれないんですよっ!」 自然と声を荒げてしまう。 自分を見ようともしないアスランの腕を掴んでこちらを向かせようとするが、 アスラン頑なにシンから顔を逸らした。 「・・・それでもいいんですか?」 (・・・いいわけないだろ。) アスランは、シンの問いかけに頭の中で返事を返す。 シンが投げかける言葉の意味にも気持ちにも気付いていたが、声には出さなかった。 代わりに出したのは、彼の気持ちを無視するもの。 「何が言いたいんだ?」 そうやって、現実から目を逸らすことしか今のアスランにはできなかった。 「・・・それは、」 どうして?と、シンは返してしまいそうだった。 何故、自分の気持ちをわかってくれないのだと。 わかっているはずなのに、何故そこから目を逸らすのかと。 自然とアスランの腕を握る手に力が篭った。 「先生はジュール先生が、・・・好きなんでしょ?」 搾り出すように紡がれた言葉。 その声にアスランは、シンの方を振り向いた。 だが、シンは俯いたまま顔を上げない。 「どうしてその気持ちを伝えないんですか? 男同士だから?そんなこと関係なく好きだったんでしょ?」 声は、アスランを諭すように優しく響く。 そして、ゆっくりとシンは顔を上げた。 「愛してたんでしょ?」 その言葉を言い終え、シンはそっと微笑んだ。 瞳には涙が光っていて、泣きそうになるのを必死に堪えて。 そして、ぎゅっ、ともう片方の拳を握り締めていた。 「・・・お前にはわからないさ。」 シンの言葉が、その笑顔とともに胸へと突き刺さる。 心の奥深くにしまって、見て見ない振りをしていた気持ちを思い出させるように。 奥の奥のずっと深い処まで。 (分かるはずなんてないよ。) アスランは、もう一度心の中で呟いた。 自分は、シンのような強さも勇気も持ち合わせてはいない。 結果が見えている戦いに挑むなんて、アスランには無理なことだった。 「放してくれないか?」 ずっと掴まれたままの腕を見ながら、アスランは言った。 敢えて突き放すように、普段より幾分低めの声で。 その言葉に従うようにシンは、その腕を放す。 「そうですね。わからないですよ。」 同時に投げ捨てるように、叫ぶように、言葉を続けた。 「過去に何があったか知らないけど、好きなのに、愛してるのに、 サヨナラする人のことなんて、分かりたくもないです。 俺ならそんなこと絶対にしない。だからこうやって、ここに居る。」 気持ちだけでは、足りないんでしょうか。 好きだって言う気持ちだけでは、不充分なんでしょうか。 行動を起こすには、それ以上の何かが必要なんでしょうか。 「好きなんでしょ?先生・・・。」 静かな部屋には、雨の音だけが淋しげに響いていた。 + + + 沈黙が部屋を支配する中、暫しの刻が流れた。 その空気を裂くように、アスランはゆっくりと立ち上げる。 そして、雨が降る外を見ながら、一言残し部屋を後にした。 シンは、その言葉に何も返せずに居た。 |