「今、時間大丈夫か?」
「そっちこそ、もう落ち着いたのか?」





Epilogue.





それは、イザークがアメリカに発ってから1週間後のことだった。
仕事を終えて岐路につく頃、不意に携帯が鳴った。
携帯を取り出し画面を見ると、彼の名前が表示されている。
アスランは、一瞬、驚きのあまり携帯を落としそうになっていた。
もちろん、そんなことをイザークが知るはずもない。

「あぁ、なんとか。もともと荷物は少なかったし、それほど苦労もしなかった。」
「そうか。安心した。」
「連絡が遅くなって悪かったな。」

なんとか持ち直して、数度目のコールで通話ボタンを押す。
携帯越しに聞こえてくる彼の声は、ほんの一週間ほど前に聞いたばかりなのに、
とても懐かしい感じがした。

「・・・で、どうしたんだ?」

何の用事も無く、イザークから連絡が来ることは珍しかった。
つい先日まで、常に仕事場で顔をあわせていたこともあり、特に急ぎの用事でもなければ、
イザークからだけではなく、アスランからイザークに連絡をとることもほとんどなかった。

「何がだ?」
「電話してくるなんて。」
「したら迷惑か?」
「そういう訳じゃないけど・・・。」

迷惑どころか、イザークの声を聞くことができて嬉しかった。
『イザークが好きだ』と、想いを伝えてから初めての彼からの連絡。
彼から電話をかけてきてくれたという、それだけのことで、アスランは胸がいっぱいだった。
それが分かっていてイザークは、そんな言葉を投げかけてくるのだろうか。

「・・・ズルイ。」

つい、本音が零れる。
そんなアスランの声に、イザークはクスッと笑いを零すと、
拗ねたアスランを宥めるように、だが確実に笑いを含んだ声で、言葉を続けた。

「・・・悪かったって。だから、そう拗ねるな。」
「自分が悪いんだろっ!」
「・・・っ!」

その携帯越しに肩を揺らしているのが想像がつくくらい、彼の声は笑っていた。
ムカついて大声怒鳴ると、息を詰めるイザークの声。
今頃、眉間に深い皺を刻みながら、耳を押さえていると姿が想像できて、
やっとアスランの声にも笑みが含まれた。
学生時代に戻ったような懐かしい会話に、心が温かくなった。

「で、結局何なんだ?」
「何って?」
「電話の理由。」
「あぁ。別にたいした理由はない。なんとなく空を見てたらお前の声が聞きたくなっただけだ。」
「それ、本気で言ってるのか?」
「どういう意味だ?」
「いや、何でもない。」

はぁ・・・。と盛大な溜め息が漏れる。
天然というわけでも、タラシというわけでもないのだが、
自然と紡がれる言葉の威力を、イザークは解っているのか、と首を傾げたくなる。
少なくとも、今話をしている相手は自分に好意を抱いているということを覚えていて欲しい。

「・・・なぁ、アスラン。」
「ん?」

少し間を開け、先程と声色も少し変えて、イザークは言った。
嫌なら答えなくても言い、という前置きに、アスランはやはりこの電話には理由があったと思う。
だが、それも次の言葉ですっきりした。


「アイツの墓の前で泣いてた理由って・・・。」


(・・・やっぱり気付いてたんだな。)

恐る恐る言葉に気をつけながら紡がれる言葉は、アスランのことを気遣ってのことだろう。
だが、アスランはそんなイザークの言葉を聞きながら、自然と笑みが零れた。

「あぁ・・・、そのことか。」

あの時、イザークは言葉を濁したまま、アスランの前を去った。
その後にディアッカに連絡をして、彼の行動の理由に気付いたわけだが、
未だにイザークはそのことを気にしていたのだろうか。
そう思うと、あの時と同じで嬉しくて、つい口元が綻んでしまった。
アスランは、そんな自分の気持ちを相手に悟られないように注意しながら、言葉を続けた。


「リリィに、言われたんだよ。自分の気持ちを伝えろって。」


よりにもよって、アスランが想いを寄せるイザークの彼女にだ。
だが、彼女の言葉は、アスランにはとても優しいものだった。
普通なら、そこでアスランを軽蔑してしまってもおかしくはない。
それでも、彼女はアスランに言葉をかけたのだ。


「だから、毎年、あぁやって彼女の墓の前で報告してたんだ。」


そういう彼女だったからこそ、アスランは毎年その場所へと足を運んだのだろう。
イザークにまだ気持ちが伝えられてない。伝える勇気がない、と。
イザークの左手には、変わらずに光り続けるリングあった。
それは、イザークと彼女を未だに強く結び付けているようで・・・。
そんな理由をつけながら、自分の気持ちから逃げていることが情けなくて、歯痒くて・・・。
彼女の気持ちに応えることが出来ない自分が、このままイザークを想っていてもいいのかと、
不安でしかたなかった。


「そして、いつの間にか、自分でも気付かないうちに、泣くようになっていた。」


アスランにとって、唯一、その瞬間だけは、涙を零すことを許されているような気がしたのだ。
イザークのことを想って、今目の前の現実から目を逸らすことの出来る瞬間だった。


「君にとっても、俺にとっても、もちろんディアッカにとっても、彼女の存在は大きすぎるんだ。」


誰も、彼女に勝つことなど、出来はしないだろう。


「だから俺たちとも、いけなかったのか?」
「そういうことだな。いきなり隣で泣かれ出しても困るだろ?
それに、君と並んで彼女の前になんて、どんな顔で彼女に向かえばいいのかわからない。」

けして、笑顔を見せることは出来なかっただろうから。

「ディアッカは・・・?」
「知ってる。っていっても、リリィと同じでバレてた。」
「知らなかったのは俺だけか?」
「そういうことになるな。一応、俺もお前にだけは気付かれないように必死だったからな。
それに、お前はリリィに必死だった。」

俺のことを見る余裕も無いくらいに、と続きそうになった言葉を、
アスランは苦笑を漏らすことで呑み込んだ。

「そうだな。・・・いつから?」

「覚えてない。ってのが正しいかな。気付いたら好きだった。
もしかしたら、初めて逢ったときから・・・。
あの頃は本当にそれだけでよかったんだ。君を想ってるだけでよかった。
それ以上望むなんて間違ってるって。」

それなのに、いつの間にかそれ以上を望んでいる自分が居た。

「で、今に至るんだ。」
「アスラン・・・。」
「って、こんな話させるなよ、恥ずかしい。」
「あぁ、悪い、悪い。」

神妙な声が聴こえて、アスランは最後はおどけて見せた。
そうでもしないと、イザークは必要以上に自分のことを責めたり、
変なところで気を遣いそうだと思ったから。

「・・・だけど、こうやって君にこんな話が出来る日が来るなんて、思ってもいなかった。
リリィのおかげだよ。」

そう、こうして君を想い続けることが出来ているのも、
君に想いを伝えることができたことも、
すべて彼女が居たからだった。
彼女が居なかったら、あの日からアスランは一歩も前に踏み出すことが出来ずに、
ただその場所に立ち尽くす自分を、過去のものとして置いて来ることしか出来なかっただろう。

「イザーク。」
「・・・ん?」
「彼女が・・・リリィが、俺の気持ちを認めてくれたからって、
君が俺の気持ちを絶対に受け入れないといけないわけじゃない。
俺は、君の傍に俺が居ることを、俺が君を想うことを許してくれただけで十分なんだ。」
「・・・あぁ。」
「だから、無理に・・・。」

そこまで口にして、アスランは言葉を詰まらせた。
そんなアスランに、イザークは小さく溜め息をつく。

(また、コイツは・・・。)

アスランが言わんとしていることは、イザークにも伝わっていた。
こういう時ぐらいは、もっと強く出ればいいものを。
少なくとも、リリィはその行動を応援してはいても、妨害はしていないのだ。
でも、その考え方がアスランらしくて、イザークはつい口元を緩めた。

「アスラン。俺は、そんなお前にもアイツにも失礼なことはしない。
ただ、少し時間が欲しいんだ。俺もまだアイツのことを自分の中で整理できてない。
だから、もう少し、俺の気持ちに何かしらの答えが出るまで、待って欲しい。」
「イザーク・・・。」
「それと、これだけはわかっていてくれ。」


まだ、自分にとっての新たな一歩はスタートしたばかりで、
ゆっくりと他のことを考えている余裕は今のところない。
だからといって、アスランの想いをそのときの感情でどうにかすることはできない。
リリィがイザークにとって大切なように、ディアッカやアスランもまた・・・。



「俺も、お前が大切なんだ。」



(・・・ありがとう。)

アスランはその言葉が言えず、小さく頷くことしかできなかった。





リリィ、やっぱり貴方の選んだ人は素晴らしい人だよ。
そんな彼を想うことを許してくれて、そんな俺を認めてくれてありがとう。
来年はきっと・・・、貴方の前に3人揃って笑顔を見せられると思います。





「やっと、俺の心も雨が上がったみたいだ。」





見上げると、視界一面に広がる星空。
アスランとイザークの未来に光を灯すように、星たちは優しく瞬いていた。







End
完読ありがとうございました。

 

 

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