PartX 09.

夕陽が射し込み、ロビーは紅く染まる。
誰もがその美しさに目を奪われ、歩みを止めた。










「ほんと、さっさとくっついちまえばよかったんだ。どうして俺があそこまで・・・。」
「シン。」


アスランが走り去った後、シンとレイは教室へと戻ってきていた。


「上手くいってくれないと、こっちが困るっつーの。」
「シン。」


レイの呼びかけも無視して、無理に笑顔作って、シンは会話を続けようとしていた。
そうでもしないと、我慢している涙が今にも零れてしまいそうなのだ。


「俺が、諦められないじゃんか、なっ?」
「シン。」


いくら自分のことをよく知っているレイの前だとしても、涙を見せるのは憚られた。
レイのことだから、きっと優しく慰めてくれる。
だけど、今、優しくされたら、自分は大声を上げて縋りついてしまう。
わかりきっているからこそ、大丈夫だ、とレイにも自分自身にも言い聞かせるように、笑顔を作る。


「お前もそー思うだろ?」
「シン、もういい加減にしろ。」
「何だよ。だいたい、お前が頑張れってッ・・・。」


前を向いていたシンがレイのほうを振り向いた瞬間、レイはシンを掻き抱いた。
シンは、突然の出来事に瞳を大きく見開くが、自分の状態を確認すると、レイの名前を叫ぶ。


「・・・レイッ!」
「もういいんだ、もう・・・。」


口では強がりばかりを言っているが、今にも泣きそうなことは、レイにもすぐにわかった。
もちろん、シンがそのことに触れて欲しくないということも。
だからといって、そんな痛々しい笑顔を向けられて、放って置ける訳がない。
こうなることは想像できていたけれど、やはり目の前で愛しい人が泣きそうになっている姿を、
黙って知らない振りをして、見ていることはできなかった。


「シン、シン・・・。」


最初は少し暴れていたが、優しい声色でレイが何度もシンの名前を呼んでいると、
ゆっくりと抱きしめられる腕に身を委ねた。


「・・・少しだけ借りるな。」


この体勢は不服ではあったが、抱きしめられる腕の強さも、伝わってくるレイの体温も、
自分の名前を呼ぶレイの声も、今は酷く心地よく感じた。
傍に誰かがいる、それだけで安心できた。





「本気だった。本当に好きだったんだ。あの人のことを・・・。」





誰に伝えるでもなく、ただ小さく吐き出すように。
溢れる涙を抑えられないのと同じように、想いも止めど無く溢れた。


大切だった。
憧れがいつの間にか、好きだという気持ちに変わって。
だけど、好きな人には好きな人がいた。
一方通行の想いは、結局交わることはなかったけれど、
それでも、貴方を好きになれたことを、俺は・・・。


濡れる肩を気にすることなく、レイはその震える肩を抱きしめていた。
今すぐ自分の想いを伝えることができたなら、どれだけ楽になれるだろう。
こうして、震える肩をただ抱きしめてやることしかできない自分が、虚しくなる。
でも、「好きだ」と、たとえ今伝えたとしても、シンは混乱してしまうだけだ。
結局、シンを苦しませてしまう。
今はただ、シンの安らげる場所をつくってやることしか、
レイにはシンにしてあげられることがなかった。


「よく、頑張った。」
「・・・うん。ありがとう・・・。」


優しい言葉と、頭を撫でてくれる手の心地よさに、シンも小さくお礼を言った。
顔を上げると、レイは、シンを包み込むような微笑みを浮かべている。
その表情に、シンは気まずそうに顔を逸らした。


するとそこには・・・。





「あっ・・・。」










そういえば、いつか先生はこんなことを言っていた。





『この雨が止んだら・・・。空には何が残るんだろうな。』





シンは、そのとき何も言えなかった。
否、答えられなかった。
そのときは、アスランの意図することがつかめていなかったのだ。
だけど、今なら分かるかもしれない。










長い長い雨が止んだら。



その空には・・・。



その空には・・・。










「・・・虹だ。」










綺麗な虹が現れる。










 + + +










ある場所では肩を寄せ合いながら。


「綺麗だな。」
「あぁ。」






ある場所では、紅く染まる空を見上げながら。

「おっ、いいね〜。」






ある場所では、涙を拭きながら。

「綺麗だ。」
「そうだな。」










それぞれの想いを胸に。
美しい茜空に架かる、綺麗な虹を眺めていた。












A rainbow appeared in the sky after the rain.













 

 

Back ll Top ll Epilogueへ