| PartX 08. イザークの目に映るのは、間違いなくアスランだった。 真剣な表情で走ってくる彼の瞳は、イザークの姿を真っ直ぐに捉えていた。 「アスラン・・・?」 見送りにしては、何か雰囲気が違った。 まず、アスランからイザークは見送りに行くという連絡は貰っていない。 いつものアスランであれば、事前にメールか電話か何らかの方法で連絡は取ってくるはずである。 それに、サプライズか何かを狙っていたのなら、こんな形でイザークの名前を呼ぶことはないだろう。 「よかった、間に合った・・・。」 イザークの元に駆けつけたアスランは、肩で息をしながらも、 イザークがまだ発っていないことを確認して、安心したように息を吐く。 「どうしたんだ?」 イザークは、逆にアスランの行動の真意が汲み取れず、驚いた表情のままアスランを見つめていた。 周りの人たちも、大声でイザークの名を叫び、駆け寄ってきたアスランに好奇の目を向ける。 「まだ、時間大丈夫か?」 「あぁ。そんなに余裕もないけどな。」 イザークは、次々と表示の変わる案内板の文字を確認しながら、 アスランを連れてその場から少し離れた。 アスランも周りの視線を感じていたのか、何も言わずイザークの後について行く。 「何かあったのか?」 「イザークに言い忘れたことがあったんだ。」 息を整えるように、ゆっくり大きく深呼吸をしてからアスランは喋り始めた。 その瞳は、真っ直ぐにイザークの瞳を捉えている。 「時間があまりないから、単刀直入に言うよ。」 何かを決意したアスランの瞳から、イザークは視線を逸らせない。 ただ、自分を真っ直ぐに見つめるアスランを、イザークもしっかりと見つめ返す。 「イザーク。君が、・・・好きだ。」 それは、今も昔も変わらずアスランの心に在り続けるイザークへの想い。 伝えたくても、伝えることができずに、いつの間にか5年以上が過ぎてしまったけれど。 やっと、今、イザークに伝えることのできた真実の想い。 「今すぐに、返事が欲しいとは言わない。ただ、イザークに俺の気持ちを知っていて欲しかったんだ。」 イザークに知っていて欲しかった。 ずっと、君を見ていたことを。 「新しい一歩を踏み出そうとする君に倣って、 俺も自分の気持ちを隠したままでいることをやめることにした。」 許されるならずっと君の傍に居たい。 ずっと、君を見ていたい。 「ずっと、君が好きだった。何年もかかったけど、やっと伝えることができた。」 これで、彼女の前で笑える。 そう言って、アスランはとても満足そうに微笑んだ。 今までに見たことのないくらい、喜びに溢れた笑みだった。 イザークは一瞬、瞳を見開いて驚いた表情を見せたが、すぐに何か考える仕草を見せる。 アスランの想いも、アスランの見せた微笑みも、イザークにとっては初めてのことだった。 だが、友人であり同性からの告白というアスランの言葉も、 不思議とイザークの心に優しく吸い込まれていった。 (・・・そういうことだったのか。) アスランのことをリリィに頼もうとしたとき、イザークには確かに彼女の声が聞こえたのだ。 それはまるで、アスランから逃げるな、とでも言うような響きで。 リリィはすべて知っていたのだろう。 だからこそ、何も知らないままアスランから離れようとしたイザークを叱った。 先程のアスランの言葉から、彼女の墓の前で泣いていた理由もある程度想像できる。 「・・・俺も馬鹿だな。」 本当に周りが見えていなかった自分に、苦笑するしかないイザークだった。 「なぁ、お前は他の世界を見たくはないのか?」 あの日、言っていた言葉は、たぶん嘘ではないだろう。 確かに、アスランは、他の世界を見たいと言っていた。 「俺は、・・・。」 「・・・一緒に、見てみるか?」 「ぇ・・・。」 まだ、アスランの想いに答えを出すことはできない。 アスラン自身も、適当な答えを望んではいないだろう。 「お前の気持ちに応えられるかどうかは、まだわからない。」 だが、きちんと自分の気持ちを整理できたときに、真っ先にアスランに伝えたいと思った。 そのときに、アスランが隣で先程のように笑っていてくれたらと思う。 この想いは、決して同情などではなく、イザークの本心だった。 「だけど、必ずお前も俺も納得がいく答えを出すから。そのとき、お前が傍に居てくれたら・・・。」 「・・・いいのか?」 声が震えた。 『一緒に』 それは、傍に居ることを許された言葉。 アスランは安堵と歓喜で、必死に堪えていた涙が溢れ出した。 「あぁ。俺のほうこそ、よろしくな。」 イザークは、不安そうに瞳を揺らすアスランに、クスッと笑いを零すと、 優しく抱き寄せ、落ち着くようにと、背中を撫でてやった。 アスランは少し頬を赤く染めながら、それを隠すようにイザークの胸に顔を埋めた。 ありがとう、と小さく囁きながら。 一番じゃなくてもいい。 彼女の次でいいから。 だから、いつか・・・。 いつか、俺が君を想うように、君も俺を想って欲しい。 俺の気持ちは、一生変わることはないから。 イザーク、君を愛してる。 「ぁ・・・。」 暫くして、アスランはゆっくりと顔を上げると、小さく声を漏らした。 |