PartT 10.


それは、リリィの病態が悪化した頃のことだった。

いつもの通り、アスランたちは交代でリリィの病室に通っていた。
花瓶の水を替え、彼女に大学のことを報告する。
毎回、特に変化は無かったが、それはそれで楽しいものだった。


『ねぇ、アスラン。』
『・・ん?』





それは、普段と同じタイミングで、声色で。







『あなたって・・・、イザークのこと好きなんでしょう?』







心を射抜かれた。







『な、んで・・?当たり前だろ?』


あまりに唐突で何の脈絡もなかった言葉。
アスランはどうしたらいいのか戸惑っていた。
必死に"いつも通り"にと言い聞かせて。


『友達でって言う意味じゃないわよ。わかってる?』


まっ、一言でいえば女の勘ってやつかな?と、リリィは世間話でもするように笑いながら続けた。


『でも、あなたを見てたらわかるわよ。あなたの彼を見る瞳を見てたらね。』


そこまで私も鈍くないわよ、とでもいいたげな瞳の強さ。
本当のところはどうなの?と、問われても、アスランはただ立ち尽くすことしかできない。
言葉のニュアンスはどこかふざけているようにも感じられるのに、
瞳だけは真っ直ぐにアスランを射貫いている。


『どうって・・・。』

『その人の婚約者を目の前にして言えっていうのもきついだろうけど、
嘘だけはつかないで欲しいの。』

『嘘って・・。』


リリィの視線が痛かった。
心も全てを見透かされているような。


どうすべきなのだろうか。
本当のことを伝えるべきなのか。


『ねぇ、アスラン。私ね・・。』


アスラン返答に迷っていると、急にリリィが話しを変えた。


『もうすぐ、死ぬと思うの。』


口調も物腰も先程と全く変わらぬ様子で、さらりと口にした。


『私の命ってもう残り少ないんだと思うの。』


何でもないことのように、さらさらと続けられる言葉。


『何言ってるんだよ。また一緒に音楽するんだろ?卒業式ももう少しだ!』


慌てたのは、アスランのほうだった。


『お願い、アスラン。聞いて。』
『でも、君は・・・っ。』

『アスラン。』


リリィは落ち着いた声で、アスランを制した。


『私のことは私が一番わかってるの。
今までとは違うってことぐらい、あなたたちも気づいてるでしょ?
それは私も同じなのよ。だから何も言わないで聞いて欲しいの。』


揺るぎ無いその眼差しにアスランはただ小さく首を縦に振った。
彼女は、ありがとう。と話を続けた。


『私はイザークが好き。そりゃ、アスランもディアッカも好き。
だけど、彼だけは特別。彼の恋人に、婚約者になれたことを嬉しく思ってる。
本当に彼を愛してるの。でもね、私はもう長く生きられない。
彼の傍にいられるのも後少しかもしれない。
それでも、いられる間はずっと傍にいたいって思ってる。』


彼女の一言一言が見えない針のように全身に突き刺さっていく。
彼女の気持ちが痛いくらい伝わってくる。


『アスラン。イザークのことお願いね。付き合っててわかると思うけど、
彼って彼が心から信頼できる人にしか本音を見せないって言うか・・。
そういうところあるでしょ?ぱっと見たら、近づきにくいって言うか・・・。
だから、彼のことをちゃんと見てあげてて。
もちろん、ディアッカもそうだけど、誰でもいいって訳じゃない。
彼のことを本当に大切に思ってくれる人にしかこんなこと頼めない。
彼もあなたにも本当の意味で幸せになって欲しいから。だから・・・。
私が傍にいて彼のことを支えてあげることが出来なくなったら・・。』





『そのときはお願いします。』





そういって、彼女は頭を下げた。


返事をすることが出来ない。
彼女は何を求めているのだろう。
こんな、ちっぽけな自分に・・。
自分の気持ちすら口にできない自分なんかに。


『ごめんね、なんか語っちゃったかな。やっぱ、恥ずかしいわ。』


話し終えたリリィは少し照れて笑って見せたが、目元には薄っすらと涙が浮かべていた。

リリィ自身も辛いのだ。
もう少しで大好きなイザークと二度と会えなくなるかもしれないのだから。
誰だって、大切な人と離れるのは辛い。
それを自分の言葉で話すのだから、本当なら泣き叫んでも許されるだろう。


『あぁ、なんか疲れちゃった。ちょっと長話しすぎたかな?
もう、横になるね。アスラン、ありがと。付き合ってくれて。
でも、全部忘れていいから。やっぱ、頼むんじゃなくて、私が守ってあげなきゃね。うん。』


リリィは流れてくる涙を隠すようにして布団に包まった。
肩が僅かに震えているのがわかる。

そんなリリィを見ていると、自分でも気付かないうちに、アスランは言葉を発していた。



『ねぇ、リリィ・・・。』



彼女は寝たふりを決め込むように、反応しなかった。



『そのまま聞いて欲しい。』



瞳を見て言う自信はなかった。
だけど・・・。








『俺、イザークのことが好きだ。愛してる。』








ちゃんと伝えなければならないのだ。



『ごめん、遅くなって。君たちを裏切ってると思った。
だから誰にも言わないつもりだった。』



離れたくない仲間だった。



『このまま自分の胸に・・って。』



そして、アスランは一言『また来るね。』といって、病室を出て行こうとした。
すると・・。



『アスランッ!』



ガバッと布団から身を起こして、リリィが呼びとめた。
アスランが驚いて後ろを振り返ると、



『ちゃんと、その気持ち伝えなきゃダメだよ!』



真剣な顔で彼女は言った。そして、



『って、彼が私を捨てるはずはないけどね。ごめんねv』



と、悪戯っぽい笑みを向けた。
アスランは、そんな彼女の姿に苦笑して病室を出た。





ありがとう。と、小さく呟いて。










 + + +










「雨の音、うるさいな・・・。」


真っ黒な空を見上げて、思った。





俺の心と同じだと。





「やっぱり、あなたの存在は大きすぎる・・・」





あなたはいないのに、あなたはいつだって彼の全てだ。





「いつになったら晴れるんだろう。この空も、俺の心も・・・。」





ずっと涙を流し続けている。







 

 

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