| PartT 11. 未だ、雨は降り続いている。 「いつになったら止むんだろうな、この雨。」 星や月は雲に遮られ、空は闇に包まれていた。 店が建ち並ぶ通りを過ぎると、そこには闇が広がる。 街燈の灯りだけが、二人を導いていた。 イザークとディアッカは墓参りの後、いつもの店へと顔を出していた。 昔、リリィも一緒に訪れていた店だ。 二人はそこで夕食を食べながら、昔話に花を咲かせていた。 「相変わらずだったな、女将さん。」 「あぁ、まったく変わっていない。」 それがいいんだけどな。と、ぶらぶらとホテルへの帰路を歩きながら、 苦笑交じりに先程のことを話していた。 傘を打つ雨は、弱まることなく降り続けている。 「あいつ、もう来たのかな?」 二人がリリィの墓の辺りを通りがかったとき、ディアッカが思い出したように呟いた。 「さあな。もうこんな時間だ。来ていたとしても今ごろホテルだろ。」 時計にそっと目をやると、針は10時を少し回っていた。 「じゃ、俺たちも急ぐか。これ、まだきつくなりそうだし。」 空を見上げながらディアッカは言うと、少しペースをあげて歩き出した。 イザークも一緒に歩き出すのかと思えば、彼だけはそこに立ったままだ。 何かに囚われたようにそこから動き出せずにいた。 「どうした、イザーク?」 ディアッカが後ろを振り返りながら叫ぶと、イザークも一瞬驚いたような表情のあと、 彼の後ろを歩き出した。 「なんかあったのか?」 「アスランが・・・いや、何でもない。」 「アスランがどうかしたのか?」 (ただの間違いだろう・・・。) イザークはもう一度リリィの墓のほうを見て、誰もいないことを確かめてから改めて答えた。 「俺の勘違いだ。」 「・・・?」 ディアッカは意味がわからないという顔をしてイザークを見つめていたが、 彼がまったく話す気がないとわかるとまた歩き始めた。 イザークは、勘違いだと答えながらも、やはり後ろが気になるのか、 何度も振り返っては、暗闇に目を凝らしていた。 イザークは、先程、リリィの墓の前でアスランを見たような気がしていた。 別にアスランがあの場所にいて、墓参りをしていたとしても何の問題もなかったのだが。 一瞬、泣いているように見えた。 あの時、車が後ろを通ったおかげで人影に一瞬光が射した。 遠くからでは人がいるのかどうかの判断さえもままならなかったが、 光だけはしっかりその人物を捕らえていた。 見間違えるはずはない。 あれ程の時間、アスランとイザークはともに過ごしてきたのだ。 それに、アスランは同じ高校で働いており、つい先日話したばかりである。 その光が捕らえた一瞬、アスランの顔が濡れて光っているようにイザークには見えた。 この雨の中なのだから、濡れて当たり前だというのに、何故か気にかかったのだ。 場所が場所だからだろうか。 何故、リリィの墓の前で泣く必要があったんだろうか。 リリィとどんな関係があったというのか。 自分の知らないようなことが二人の間にあったのだろうか。 答えなど出るはずもなく、時間だけが流れていった。 + + + それから数日が過ぎ、聖学園はテスト週間に入っていた。 「おはよう、イザーク。」 「・・・ぁ、おはよう。」 イザークは何か考え事でもしていたのか、返事を返すのに少しの間ができた。 「どうしたんだ?朝から。何か考え事か?」 「いや、何でもない。」 「そっ。ならいいけど。」 そう言ってアスランは職員室に向かおうとしたが、すぐに呼び止められた。 「アスラン。お前、リリィのところにいったか?」 「あぁ。行ったよ。金曜の夜に。」 何故そんなことを、とイザークを見るアスランの目が語っていた。 イザークはディアッカと一緒にいたのだから、自分のことは聞いているはずなのだから。 「夜って、何時ごろまでいたんだ?」 「何時ごろって・・・。けっこう遅くにあっちについたからな・・。」 「そうか、ならいい。」 「どうしたんだ?」 イザークらしくない脈絡のない質問に、アスランのほうが首を傾げていた。 イザークは自分だけで納得しているようだった。 「いや、こっちのことだ。気にしないでくれ。」 「気にしないでって。まぁ、いいけど。」 あんな質問されたら普通気にするだろう。と思いつつ、アスランは時計を見た。 もう少しで、職員会議が始まる時間だ。 「イザークも早く来なよ。もう少しで職会始まる。」 アスランはそう言い残して職員室に戻った。 イザークはというと、その後も難しい顔をして何か考えているようだった。 金曜・・・。 たしか、リリィの墓には10時ごろまでいた筈だ。 ホテルに帰ったのは11時ごろだった。 でも、何故イザークがそんなこと聞くのだろうか。 もしかすると、イザークはあのとき近くにいたのだろうか。 お墓にはちゃんと花もあったが・・・。 (まさか、泣いてるとこ見られた・・・?) 今ひとつ確信はなかったが、イザークがああいう質問をしてくるということは、 何か変わったことがあったはずである。 一度、ディアッカに聞いてみるべきなのだろうか。 そのとき、ちょうど予鈴が鳴った。 「先週はご迷惑おかけしました。期限延ばしたおかげで、ちゃんと全員提出できたみたいだな。 なら、今日のテストも期待できるでしょう。では、テストを配ります。 私語を止めて前を向いてください。」 まずは、今をちゃんとこなそう。 イザークのことはそれからだ。 アスランは問題用紙を配りながら、そのことを頭の隅へと追いやった。 |