PartT 09.



「もしもし。」
――久しぶりだな。元気にやってるか?
「なんとかね。電話して来たってことは、もしかしてまだイザークから聞いてないのか?」
――いや、聞いたよ。だから、電話したんだ。
「聞いたから?」
――そうだ。お前、気にしてるのか?イザークが好きだってこと・・。
「そのことなら前にも話したけど、リリィ自身にもばれてたし。それだけじゃないんだ。
なんて言うかさ・・。」
――うん?
「いや、何でもない。こっちのこと。なんかあったら、ちゃんと話すよ。」
――ならいいけど、あんま溜め込みすぎんなよ。
「あぁ。」
――じゃ、また時間見つけて一緒に呑みにでもいこうぜ。
「そうだな。また、連絡する。」
――おう。じゃあな。
「じゃ。」


・・・ありがと、ディアッカ。






また、静かな夜が更けていく・・・。










 + + +










あれから、数日が経った。

シンの心は少しは落ち着いたようだった。
ぎこちないながらも、アスランの顔も見れるようになったのだ。
しかし、罪悪感だけはいつも胸にある。


「えっと、あと物理の課題の提出が明日が最終閉めきりですが、ちょっと用事ができてしまって、
5時間目の授業が終り次第学校を出ます。なので課題の提出はお早めに。」

アスランの意地悪っぽい笑いを見ると、クラスからブーイングが巻き起こった。
このクラスは理系なので物理の選択者がほとんどだった。
ちょうどテスト前で課題の提出に追われていたときに、
提出期限が早まると正直文句の一つも言いたくなるものだ。

「悪かったって。また、詳しくは明日の授業で話すから。では、委員長。」

こうして、終礼は終った。
まだ、終っていなかった生徒は必死に課題広げている。

(なんとか、一日終わったなぁ・・)

久しぶりに青く晴れた空を見ながら、ゆっくりとシンは伸びをした。

(先生の用事って何なんだろ・・?)

「まっ、いっか。」

空を見上げていると何故か、そんなことはどうでもいいように思える。
シンは、助けを求める友達を尻目に、教室を出ていった。







同じ頃、同じ空を眺めながら、







(イザークたちもう行ったかな?)


アスランは空に続く一本の飛行機雲を見ていた。


既に、イザークとディアッカはリリィのもとへ向かっていた。
ここから、飛行機で2時間ちょっとのところにリリィの墓はある。
とても静かで緑の多い場所だ。

明日は、リリィの命日。
イザークは明日は授業がないので今日のお昼にこちらを発った。
ディアッカも休暇を貰うとかで同じ飛行機でいったようだった。
アスランは、明日の夕方にこちらを発って、明後日の昼にはあちらを発つ予定。
ほとんど日帰りと変わりない。
本当ならば、イザークたちと呑みに行ったりしてもよいのだが、
実際のところ、テスト前は忙しい。
それに、何故かこの日だけはイザークと会うことがアスランにとって、辛いのだ。
学生時代は、講義が被った、試験が近いなどという理由で断っていた。
これは就職した今も変わらず、アスランは何とかして彼らと、
否、彼――イザークとこの日を過ごすことを拒み続けていた。
リリィは怒っているのかもしれないが、彼女の墓の前に、
イザークと並んで立つことは、アスランにはまだできなかった。


もう少し・・・、そう、もう少し・・・。
自分の気持ちに整理がついたら・・。


そうやって、もう5年が経過していた。


毎年、アスランは彼女の墓の前で自分の気持ちを吐露していた。
そして、謝罪して、涙を流す。


このことを彼は知らない。





――リリィ・・。明日、また報告しに行きます。










 + + +










「おはよう。」
「久しぶりだな。」


小雨が降る中、一つの墓の前に二人の男がいた。


「今年も雨だな。いつもここに来るときは雨が降ってる。」
「どうにかなんねぇのかな。鬱陶しいぜ。なぁ、リリィ。」


いつ来ても変わらないこの場所。
懐かしいあの声はもう聞こえてこない。

二人の男は、花をいけ、線香をあげた。
弱々しい灯とともに、細い煙があがる。

そして二人は、ゆっくり墓の前に屈み、手を合わせた。


雨の音が静かに響く。



「なぁ、リリィ。イザークがニューヨークからお声がかかったらしいぜ。
ほら、お前からもちゃんと伝えろよ。」
「わかってる。リリィ。ニューヨークの知り合いからこっちに来てみないかと誘われた。
この夏に一度行ってみるつもりだ。」
「いいよなぁ〜。俺なんて、まったく去年と変わりなんてないぜ。
こいつとアスランなんて同じ学校だっつーのに、俺だけ別だし。不公平じゃね?」
「そんなこといったってしょうがないだろうが。」
「そうだけどよ〜。いいよなぁ〜リリィ。」


昔と変わらぬ口調でそこにいるだろう彼女に話しかけた。
どうでもいいような、日常のこと。
そこには、笑っている彼女がいたような気がした。


「また、強くなってきたな。」
「あぁ。それじゃ、戻るか?」
「リリィ、俺たちはこれで戻るな。たぶん、近いうちにアスランも来てくれるはずだ。」
「あぁ。あいつのことだから今日の夜辺りか明日の朝だろ?それまで、待ってくれな。」
「じゃ、また来る。」
「またな。」


先程より強くなってきた雨の中、二人の男はその場所から離れていった。

また、静寂が戻った。










 + + +










(あいつら、大丈夫かな・・・)


慣れた足取りでリリィの墓へと向かう。
その道中、残してきたクラスのことを思った。
最初は、授業が終ったらということだったが、
時間の都合で授業が始まってすぐこちらに向かうことになった。



『すみません。今日のこの授業が終ってからっていってましたが、
予定が変わってもう学校を出なくては行けません。なので、この時間は自習になります。
それと、課題の提出ですが本当なら今日までのところ、こちらの都合で迷惑かけているので、
今週の土日まで延ばします。たぶん、日曜の朝には学校に戻って来るつもりです。
俺がいない間は机の上に箱を置いておくので、そこにいれておいてください。
では、宜しくお願いします。』



(まぁ、言うことだけは言ってきたんだけどな・・)


おかげで、なんとか予定通りの飛行機に乗れ、こちらにこれた。
ホテルにチェックインしてからリリィの墓に来る頃には、もう八時を回っていた。

相変わらず、雨は降り続けている。



「ちゃんと、来てるな。」


墓の前にいくと、まだ新しい花と線香があった。
たぶん、イザークとディアッカのものだろう。


「遅れてごめん、リリィ。」


そういって、アスランは自分の花を供え、線香に灯をつけた。
煙が上がるのを確認してから、先程の彼らと同じように屈み、手を合わせた。


暫しの静寂の後、アスランも墓に向かって話しかけた。


「・・お久しぶり、リリィ。ごめん、遅くなって。」

アスランはゆっくり立ちあがり、淡々と話を続けた。


「今年もやっぱり一緒にこれなかった。リリィはどう思ってる?やっぱり怒ってる?
だけど、未だに彼らと並んであなたの前に立つことはできないんだ。
まだ、あの指に光っている指輪のせいなのかな?」


5年経った今も彼の指からそれは消えない・・。


「あなたはちゃんと俺にいってくれたのに。俺は何もできないままだ。
あれから何も俺たちの関係は変わらない。好きだって、伝えることすらまだできていないんだ。
俺って、バカだよな。」


何度同じ報告をしてるのだろうか。
去年もたぶん、こんな話ばかりあなたにしていた気がする。
時は経つのに、全く成長していない。
あなたは伝えてくれたのに。



「あなたが言ったあの言葉、今でもはっきり覚えてる。」















 

 

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