| PartT 08. 学園祭が終って、1週間が過ぎた。 シンの中では、あの日から全く変わっていなかった。 「アスラン。」 「あっ、イザーク。」 ちょうど、アスランとイザークが話しているところを、シンは目にしてしまった。 「今年だが、お前はどうするんだ?」 「ごめん。今年も一人で行くよ。ちょっと仕事溜まってるんだ・・。」 (何、話してんだろう・・。) 「そうか。なら、俺からディアッカに伝えておく。」 「頼む。それと、イザークからディアッカにも謝っといてくれないか。 いつも誘ってくれてるのに悪いって。」 ――好きだ・・・。 二人の姿を気にしていると、不意に先日の声が蘇る。 シンは、それを飛ばすように頭を振った。 「わかった。あんまり、無理するなよ。」 「あぁ・・。」 シンが前を向くと、話はもう終ったみたいだった。 イザークの背中が去っていくのが見える。 「わかってるよ。」 イザークの背中を見つめるアスランの姿をシンはずっと見ていた。 すると、振り向いたアスランが何か口にしたように見えた。 そのとき、アスランが微笑んだように見えたのは気のせいだったのだろうか。 とても哀しげに見えた。 前を向いたままボーっとしていると、アスランがシンのいる方向へ歩いてくる。 シンは、あまり余所余所しく見えないように、気を使いながら、急いでクラスへと入った。 (どうしたんだ・・?) レイは自分の席に座りながら、急いでクラスに入ってきたシンを見ていた。 つい先程まではボーっとしてたかと思うと、今度は急に隠れるようにこちらに来た。 不思議に思ったが、その謎はすぐに解けた。 ガラッっというドアを開ける音と同時にアスランが入ってきた。 アスランを確認するなり、シンは頭を下げた。 普段なら、じっと穴があくかと思う程見つめていた筈なのに。 (何かあったんだな・・。) それは確信だった。 今までずっとシンを見ていたレイには、シンの様子がおかしいことはすぐにわかる。 たぶん、学園祭の頃だろう。 その日からシンの様子はおかしかった。 (どうして何も話さないんだ・・?) 胸に微かな憤りを感じた。 (お前にとって俺は、その程度の奴なのか・・?) 雨がポツポツと窓を濡らした。 + + + 『シン、今日の放課後時間あるか?』 『放課後?何もないから大丈夫だけど?』 『なら、少し下足で待っててくれないか?話したいことがある。』 『わかった。じゃ、待ってるな。』 (とは言ったものの、話って何なんだ?俺、何かしたっけな?) 今朝、普段通りレイと登校していると、レイが言った。 寝ぼけていたせいもあって、シンは流れで適当に返事をしたが、 脳が覚醒していくにつれ、話の意味が気になって仕方なくなった。 突然、改まって言われても、逆に困ってしまうのだ。 (もしかして、バレたかな・・・。) 既に、文化祭終了時に心配されていた。 レイなら、あれからのシンの行動見ていたらすぐに気づいてしまっただろう。 それだけ、あからさまな態度をとっているシンもどうかと思うが、 これについてはどうしようもなかったのだ。 (話すしかないよな・・。) レイが来るまでの間、シンは頭の中を整理していた。 「悪い、遅くなった。」 駆けて来る足音とともにレイの声が聞こえた。 少し、息が弾んでいる。 走ってきたようだった。 「いいよ。気にすんなって。それより、話だけど帰りながらでいいか?」 「ああ。」 ふたりは、ゆっくり帰りながら話をした。 話しかけるタイミングを互いに探しているようで、無言が続く。 顔に吹きつける、梅雨の湿った風が鬱陶しかった。 「なぁ、シン。お前・・・。」 暫しの沈黙の後、レイが話そうとしたが、シンはそれを遮るように言った。 「あのさ、レイ。お前に言わなくちゃいけないことがあるんだ。」 レイは少し驚いたみたいだったが、シンの話に耳を傾けた。 察しのいいレイは、シンの話すことも見当がついたようだった。 「お前も気づいてると思うけど、最近ちょっとしたことがあった。」 シンは、学園祭の日の出来事を話した。 「『好きだ・・』っていう先生の声を聞いて、気が付けば写真を見てた。でも、すぐに後悔した。」 あの時は何も考えていなかった。 ただ、知りたかった。 誰が好きなのかということを。 「先生の心の中に土足で踏み込んでいったんだって。知ってはいけないことを知ってしまったって。」 隠さなければいけないほどの想いを・・。 「その上、そんな時に俺は、自分がザラ先生のことが好きなんだって気がついた。」 本当に、最低だ・・。 「で、その写真には誰が写っていたんだ?」 「・・・ジュール先生・・。」 「ジュールって、この学校のか?」 「うん。よく一緒にいるの見かけるだろ?文化祭のときも俺たちの店にきて一緒にお茶飲んでたし。」 「そうだが・・。どうして、あの人を?あの人、奥さんか恋人がいるだろ?」 「俺もそう考えた。だから、もう訳わかんなくて・・。」 どうすればいいかわからなかった・・。 「その写真って最近のやつだったか?」 「ぇ・・。いつのって・・、最近じゃなかった。先生若かったし・・・。」 (・・そういえば、二人の背景に学校みたいのが・・・。) 「そういえば、学校みたいな建物が一緒に写ってた・・。」 「そうか・・、ならもしかしたら・・。」 「もしかしたら?」 「たぶん、二人は大学時代からの友人なのかもしれない。」 「だから、二人とも名前で呼び合っているのか・・。」 「そうかもしれない。」 (ってことは・・・。) 「ってことは、先生ってもしかして大学のときからジュール先生のことが好きなのか?」 「たぶんな。学生の頃の写真を大切に持ってるってことはそういうことじゃないのか?」 (そんなに長く、先生はジュール先生のことを想っていたんだ・・。) 「俺、どうすればいいんだろ・・。諦めるしかないかな・・。」 「本当に、諦められるのか?まだ、何にも伝えてないんだろ?」 「それはそうだけど・・。先生の想いに勝てる気がしない・・。」 「そんなことでいいのか?シン。相手もお前も片想いには変わりがないだろ。 何もしないうちから諦めるなんて、お前らしくないぞ。」 「・・うん。」 たとえ無理だとしても、レイの言葉はシンに強く響いた。 もう少し頑張ってみようと。 シン自身もよくわかっていた。 自分が、そんなに簡単に諦められるほどできた人間ではない、ガキだということを。 (ガキはガキなりに頑張ってみてもいいのかもしれない。) 「レイ・・。」 「・・?」 「ありがと。俺、もっかい頑張ってみるわ。」 「あぁ。」 空はもう赤く染まっていた。 結局、レイが聞きたかったことは聞けた。 シンも楽になったようだった。 『本当に諦められるのか?』 『何も伝えていないんだろ?』 あの時、シンではなくレイは自分に言い聞かせていた。 シンがはっきりあの人のことを好きだという確信を持った。 もう、ただの好意ではなくなっていた。 シンは似ていた。 振り向いてくれない相手を必死でどうにかしようと足掻いている・・・ そんなレイ自身と。 |