| PartT 07. 「はぁ・・・。」 やってしまった。 先生の触れてはいけない部分に触れてしまったんだ。 それも、先生の許可も無しに勝手に土足で踏み込んでしまった。 シンは、あのときの自分の軽率な行動を心底悔やんでいた。 「どうしたんだ?」 自分の教室に戻って来たはいいが、ぼうっと突っ立っているシンを不思議に思ってレイが声をかけた。 「いや、ちょっとさ・・。」 「ところで、ビラのほうはどうなった?」 「あっ、ビラならダメだった。職員室に誰もいなかったし。」 「そうか。」 「うん・・。」 手に持っていた余りのビラをレイに手渡すと、シンは教室を出た。 ちょうどシンの担当の時間ではなかったこともあるが、何より、今はそういう気分にもなれなかった。 他人に笑顔を向けてる余裕など、シンにはなかった。 ――好きだ・・ あのときの声が耳から離れない。 シンは、一般には開放されていない廊下で一人黄昏ていた。 ただ、先程のこと思い返しながら。 『先生はイザーク先生のことが好き。』 これは、事実。そして、 『俺は先生が好き。』 たぶん、これも事実なのだろう。 確信を持てたのは、あの写真を見てしまったせいだった。 タイミングとしては最悪ではあったが、アスランの姿を見て、言葉を聞いて、 辛いと思ったのはそういうことなんだろうと。 だが、 「はぁ・・。」 あんな場面に出くわさなければ。 あんなことしなければ。 「俺って、最低・・・。」 溜め息ばかりついてしまう。 今更、後悔などしても遅い。 わかっているが、どうすればいいのかもわからない。 今までは、見かけるだけで嬉しかったはずなのに、今はきっと辛いだろう。 これからどう接すればいいのだろう。 ちゃんと顔を見れるかどうかさえ、怪しい。 (誰かが、溜め息ついた分だけ幸せが逃げるとかいってたっけな・・。) そんな自分を嘲笑した。 「はぁ・・。」 シンはもう一度溜め息をつくと、教室に戻った。 もうすぐ、シンの担当の時間である。 (俺は、上手く笑えるんだろうか・・。) 沈む気持ちとは裏腹に、晴れ渡る空が憎たらしかった。 + + + 学園祭は大盛況の中、終りを迎えた。 1組は、3年の最優秀クラスにも選ばれた。 クラスは大いに盛り上がっていた。 「みんな、今日はお疲れ様でした。さっきの賞状は後ろに飾っておきます。 それと、打ち上げに関しては・・」 そこまで言うと、クラスの一人が立ち上がって宣言した。 クラスにどっと笑いが溢れる。 「ハイッ!俺が担当しますっ!!出欠に関しては俺に連絡してください。 場所はいつもんとこを予定してます。」 「ということです。では、お疲れ様でした。」 シンは軽く流して、あいつさつを終えた。 「じゃ、今日はこれで解散します。 打ち上げするのはいいけど、学校に連絡が来ないようにしろよ。」 と、アスランが言うと、皆は「は〜いっ!」と元気よく返事を返す。 信じられないな。という顔で、苦笑しながらアスランは皆を見ていた。 皆は、そんなことを気にすることもなく、今夜の予定について盛り上がっていた。 「シン、レイ。」 シンとレイが前からそれぞれの席に戻ろうしたとき、呼びとめられた。 「お疲れ様。上手くいったのもお前たちのおかげだ。」と、アスラン。 「いえ、みんなのおかげです。俺たちは指示してただけですから。」と、レイ。 「たいしたもんだよ。今日は、ゆっくり休んで疲れをとってまた頼むぞ。」と、アスラン。 「はい。」 シンは、結局、返事しか返せなかった。 上手く、アスランの顔が見れないでいた。 「シン〜っ、レイ〜っ。」 帰る間際、後ろから名前が呼ばれた。 「お前らは打ち上げくるよな?」 「えっと・・・。」 シンは、返事に困ってしまう。 どうしても打ち上げという気分にはなれない。 今は、ひとりになりたかった。 「ごめん、今日はパス。次は出るから。」 シンは、考えた末断った。 「え〜、シンお前欠席かよ〜。ってことは、レイも欠席かぁ〜?」 「悪いな。」 「って、俺は出ないけど、お前まで止めることないだろ?」 「そうだぜ。お前らどっちも欠席とか意味ねーだろ。」 「悪いな。今から用事があるんだ。」 「そうなのか〜。まっ、次はお前らも参加しろよ。」 「おう。じゃあなっ。」 あのあと、周りにいろいろ言われたが、二人は無事帰路へとついた。 「レイ、用事って嘘だろ?」 「何が?」 「さっきだよ。打ち上げ欠席した理由。」 「あぁ。そんなこと言ってたな。」 「お前な〜。」 シンが呆れたふりをしていると、突然話題が変わった。 「そんなことより、シン。最近何かあったのか?」 「ぇ・・?」 「打ち上げもそうだが、ビラの時の様子もおかしかった。」 「・・何にもないけど。」 「そうか?」 何にもないわけではないが、今は上手く話せる状態ではなかった。 「そうだよ。何かあったらレイには話すって。」 「ならいいが・・。」 レイはしっくりこない様子でシンを見ていた。 その居心地の悪い視線に、シンは顔をそむけることしかできない。 「何かある前に俺には言ってくれ。」 「わかった。」 もう、あったんだ。と頭で考えながら、シンはレイの優しさに感謝した。 蒼かった空は、いつの間にか赤く染まっていた。 |