| PartT 06. 「リリィッ!!」 病院の廊下に響くディアッカの声と急ぐ二人の足音。 講義の途中にイザークから連絡を受けて、二人とも講義を抜けて走って来ていた。 メールにはただ一言。 ――リリィが倒れた。 こう書かれていた。 「リリィッ!!」 病室につくと、そこには苦笑しながら二人を見ているリリィと寄り添うイザークがいた。 「大丈夫なのかっ!?」 ディアッカの声の大きさは相変わらずで、ここが一瞬どこなのか忘れてしまう程である。 それだけ、彼は必死だったのだ。 「うん。一応・・・。」 リリィが申し訳なさそうに答えると、ディアッカは、よかった。っとその場にへたり込み、 荒い呼吸とともに、よかった。よかった。と小さく呟いた。 ディアッカは、病室に着くまでもうわ言のように、リリィの名前を口にしていた。 ただ、リリィ、リリィ・・・と。 無事でいてくれと。 ディアッカの姿は、どれほど彼がリリィのことを思っているのかを、痛いほど表していた。 誰よりも、ディアッカはリリィのことを心配していた。 恐らく、イザークよりもディアッカは・・・。 「ごめんね。」 そう謝るとリリィなりに、いつも通りの笑顔を向けた。 このとき、ここにいた全員があることを悟っていた。 ディアッカは「無事でよかった。」と何度もうなずき、リリィの頭を撫でる。 気付いたことなど、気にも留めない振りをして。 「つーか、お前が変な文章送ってくるからだろ。」 「倒れたことには間違いないだろう。」 「それにしても、一言『リリィが倒れた。』なんて送ってこられたら、・・・いろいろ考えるだろうが。」 それは真実であった。 リリィはここ1ヶ月の間に数回倒れていて、何度か病院にも運ばれている。 去年はそれほど酷くなかったが、ここ数ヶ月は大学を休むことも多くなっていた。 誰もが、そのことを考えてしまうほどだった。 「ごめんね、ディアッカ。イザークも慌ててたの。 私が倒れたとき彼が傍に居たわけじゃなかったし。」 リリィ曰く、声楽の授業のときだったらしい。 イザークはたまたま隣りで授業を受けていたのだ。 リリィは、ちょっと張りきりすぎちゃって・・・。といっていたが、 実際のところどうなのかはよくわからない。 一番わかっているのは彼女自身なのだ。 もう一度、ごめんね。と謝るとリリィは窓の外を見た。 「ぁ・・雨・・・。」 「本当だ。俺たちが走って来たときは雨なんて降ってなかったのにな・・。」 気づかなかっただけかもしれないが、外は雨だった。 まるで、今の自分たちの心を表してるようだった。 「じゃ、お前はもう寝てろ。少し無理し過ぎだ。」 「うん。」 暫くして、イザークがリリィに言った。 リリィも大人しくしたがって、ベッドに横になった。 「おやすみ。」 「おやすみ。」 そういって、リリィ以外の3人は病室から出ていった。 ベッドに横たわるリリィは、今にも消えてしまいそうな程、弱々しかった。 「で、あいつはどうなんだ?」 談話室の前まで来ると、タイミングをはかったかのようにディアッカが言った。 「お前は全部聞いてんだろ?」 少し声には、怒りが混じっている。 対して、イザークはゆっくり空を見ながら言った。 「・・・あいつはもう長くない。」 誰も答えなかったが、誰もが考えていたことであった。 リリィの命があと僅かなこと、それは変えようの無い事実だった。 ディアッカはソファーに座り、頭を抱えた。 イザークは、空から目を逸らそうとはしなかった。 アスランには立ったまま、空を見上げるイザークを見ることしかできなかった。 重い沈黙が流れる。 「・・あいつは知ってんのか?」 暫くして、ディアッカが呟いた。 頭を上げ、誰もいない静かな廊下を見つめながら。 「いや、・・詳しくは知らないはずだ。だが・・・。」 「気づいてるだろうな。」 「あぁ・・。」 先程の笑顔のことである。 リリィは自分の未来について、あの場にいた3人と同じように、 彼女もまた、悟ってしまったのだろう。 「俺たちゃ、どうすりゃいいんだろうな・・。」 ディアッカは天井を仰ぎながら言った。 その言葉には、何もできない悔しさと怒りが篭っていた。 誰もその言葉に返事をすることはできなかった。 雨の音がうるさく響いた。 それから、アスランたちは毎日のようにお見舞いに行った。 これは、リリィが以前に倒れたときとたいして変わらなかったが、 気持ちのほうは少し違っていたようだった。 いつ何があっても大丈夫なように・・・。 リリィは大丈夫だという想いとともに、考えたくもない現実を頭の片隅に留め。 4人は変わらない日常を過ごした。 笑って、怒って、泣いて・・・。 何も変わらなかった。 何も変わるはずがなかった。 梅雨も本格的になりだした6月末。 リリィは3人の見守る中、息を引き取った。 誰もリリィの前で涙を流すことはなかった。 それは、皆がそれぞれ決めていたことであったから。 彼女の前では絶対に涙は見せないと。 彼女を送るときは笑顔で送ってあげようと。 そう、心に決めていたから。 彼女もそう望んでいるはずだと・・。 葬儀は、涙雨の降る中、行われた。 その日、一言も言葉を交わすことはなかった。 + + + 「はぁ・・。」 アスランは、空を仰ぎながら盛大に溜め息をついた。 職員室を出た後、やはり他の教室を回る気にはなれず、屋上にきていたのであった。 いつもは必ず生徒がいたが、今日は誰もいない。 「俺は何してんだろ・・・。」 いいかげん、ちゃんとしなくちゃいけないのだ。 イザークにもリリィにも。 「なぁ、リリィ。」 空に向かって、アスランは苦笑いにも似た表情を浮かべた。 ――ねぇ、アスラン・・。あなたって・・・。 彼女に言われた言葉が今も頭から離れない。 ――イザークのこと、好きなんでしょう・・・? |