| PartT 05. もう、あれから5年が経つのに俺は何にも変わらない。 君も同じように指輪がはめられたままだ。 なぁ、イザーク。 だけど、俺はやっぱり、 君が・・・ イザークが・・・ ・・・好きだ。 これだけは、ずっとあの日から変わらない。 その日も雨だった...。 「おはよう、アスラン。」 「おはようございます。」 「よっ!」 何気ない日々が過ぎていた。 「だから、敬語はやめてよね。」 「そうそう。タメ口でいいっしょ?」 「で、でも・・・。」 「あいつらがそう言ってるんだから、そうしてやれ。」 「・・とは言われても・・・。」 あの日から、アスランはずっとイザークたちに仲良くしてもらっていた。 まだ、入学してから2ヶ月あまり。 季節は春から梅雨へと変わり始めていた。 「なんか、その言い方だったら私たちのほうがガキみたいじゃない?」 「そうか?」 「そうよ。なんか、失礼。」 リリィがぷーッとむくれると、周りが笑いに包まれた。 彼女がいると、常に笑顔が溢れていた。 「じゃ、今日も放課後、私の家でやってるから。アスランもよかったら顔出してね。」 「わかりました。」 「アスランっ!」 「ぁ、えっと・・、わかった。」 「よしっ!待ってるね〜。」 そういって彼女たちは去っていった。 週に2、3回、リリィの家でちょっとした集まりというか、仲間内だけで音楽を楽しんでいるらしい。 アスランがこれを知ったのはつい最近のことだった。 大学の帰り道、偶然通りかかった大きな庭のある家。 家自体は珍しいわけではなかったが、そこから聞きなれた歌声が聞こえてきたので、 そっと柵越しに覗いてみると、楽しそうに歌っているリリィがいた。 その周りにはイザークとディアッカもいる。 暫しの間、アスランは彼らと同じようにリリィの歌に聞き惚れていた。 彼女らしい澄んだ声が響いていた。 『あっ、アスランっ!』 曲が終ったところでアスランが帰ろうとすると、リリィに見つかってしまった。 別にやましいことがあったわけではないが、少々居心地が悪い。 どうしていいかわからず、アスランがその場に立ったままでいると、 中に入ってきて。と促された。 庭には、ピアノとヴァイオリンがおかれていた。 話によると、週に2、3回音楽をやっているらしく、場所は専ら大学からも近いリリィの庭らしい。 アスランがヴァイオリンをやっていたと話すと意外に話は盛り上がり、結局弾くことになってしまった。 イザークのものだというヴァイオリンを借りて、 簡単に弾いてみると、ディアッカがピアノを弾いてくれた。 毎回こんな感じで、別にやる曲を決めたりせず、楽しんでいるらしい。 大学受験などもあって、ここ1年まともにヴァイオリンを弾いていなかったので、 アスランもとても楽しんでいた。 これがきっかけでアスランもここに誘われることとなる。 この集まり(?)に参加するようになって、 アスランはいろいろと彼らのことを知っていった。 まず、彼らが音楽を専攻していること。 これはこうやって音楽をやっているのだからすぐにわかることだが。 それに3人とも教師を目指していること。 これはアスランも同じである。 あと、リリィが体が弱いこと。 普段の彼女からは想像がつかなかったが、あまり無理できる体ではないらしい。 実際、去年も何度か入退院を繰り返していたようだった。 そして、イザークとリリィが付き合っていること。 正しくは、"婚約者"であるということ。 この頃は、アスランもまだイザークのことが好きだとか、 そういう感情がはっきりしていなかったので特に何も感じてはいなかった。 ただ周りにカップルがいる。そんな程度のものだったのだ。 だが、アスランがその事実を事実として受け止められなくなるまで、そう時間はかからない。 「こんにちは。」 「よっ!今日は早かったな。」 放課後、アスランがリリィの家に向かっていると途中でディアッカに会った。 「午後の講義が一つ、休講になったんで..いや、から。」 「そっか。」 アスランが敬語とタメ口とで苦闘していると、ディアッカはクスッと笑って、 「あんま、無理しなくていいからな。」 それに今はリリィもいないし。とフォローしてくれた。 リリィの家に着くとそこにはまだ誰もきていない。 ふたりは庭にあるベンチに座り残りの二人が来るのを待った。 「今日は2人と別なんですね。」 「あぁ、今日はリリィが遅いんだよ。で、あいつがそれを待ってる。」 「ディアッカは待たなくてもいいの?」 「今日はお前がきてるかもしれないだろ?だから。 それに、俺がいたってたいして変わらないしな。」 揃うまでの間、二人きりで少しの間、話していた。 特にこれといった話題もなく、ただ世間話をダラダラと。 リリィがやってきてアスランたちに気づくと決まって、 「何話してたの?」と聞いてくるが、ふたりともふざけて教えなかった。 そうすると彼女は、毎回ぷーッと頬を膨らませて怒るが、アスランたちが笑うだけだった。 その姿をイザークは優しそうに見つめていた。 それから、講義以外の時間をイザークたちと過ごすようになって、 半年が過ぎ1年が過ぎようとしていた。 アスランの気持ちは徐々に変わっていった。 (俺はそこでずっとイザークを見ていたのかもしれない。) 最初は、綺麗な人だと思っただけだった。 そして、頭の中ではイザークとリリィが付き合っていることを 祝福してるはずだった。 毎日のように見る彼。 1年近くも一緒に過ごしているといろいろな面が見えてきた。 最初は、表情が乏しいというか感情を表に出さないように思えたが、彼女の前だけでは違うこと。 アスランたちの前でも他人よりかは笑ったり、怒ったりしていたが彼女は特別だった。 いつからだろう、そのことで胸が痛み出したのは。 リリィはとても感情表現が豊かで、表情がコロコロ変わる。 その全てをイザークはやさしく見守っていた。 年上が年下を見守るようなものとは少し違って、そこには愛情が溢れていた。 大切だということが見ていてすぐにわかった。 そして、垣間見せる哀しげな表情にアスランは心を奪われてしまった。 イザークは時々悲しそうな表情をする。 リリィを見つめているとき、一瞬だけ。 彼女と目が合うとすぐにいつもの笑顔に戻るが、ほんの一瞬だけ。 どうしてそんな表情をするのか解らなかったが、その表情はアスランの心を奪うのに十分だった。 ずっとイザークを見ていたアスランだからこそわかることであった。 2人きりで話すことはめったになかったが、学校内で会えば話していた。 お互いにあまり話すほうではなかったので、喋らないで過ごす時間のほうが長かったかもしれない。 皆でいるときはリリィばかりが話していたこともあるが。 でも、その空間が時間が心地よかった。 話の内容は、音楽のことや本のこと。 イザーク自身も本はよく読むらしく、好きな作家の話などでは特に盛り上がったように思えた。 アスランはその中で向けてくれるイザークの笑顔がとても嬉しかった。 その笑顔だけは、自分に向けられているのものだと、 イザークが、自分を見てくれているのだと思えたから。 そうやってアスランはずっとイザークを見ていたのであった。 自分でも気づかないうちにイザークに惹かれて、イザークに恋をしていた。 頭と心は全く逆の方向へ動いていく。 そして、自分でそのことに気づいたときには、もう落ちていた。 たぶん、あの時からずっと。 初めてイザークと会ったときからずっと、アスランは知らないうちにイザークに惹かれていた。 誰かにこのことを打ち明けることはできるはずもなく、また1年が過ぎていこうとしていた。 アスランの想いは募る一方だったが、アスランはイザークの傍に皆と同じようにいた。 リリィの周りで皆で笑って、そしてイザークを見ていた。 イザークはリリィの恋人だから。 イザークはリリィの婚約者だから。 頭で必死に言い聞かせていた。 それ以上、自分が踏み込んでしまわないように。 これ以上、恋焦がれることがないように。 ただ好きでいることで、それだけでいんだと。 この想いは一生胸に秘めたままでいいんだと。 ただひたすら、アスランは自分に言い聞かせていた。 そんなとき、リリィが倒れた。 半年もすれば卒業という梅雨の頃だった。 その日も、雨だった・・・。 |