| PartT 04. 「いらっしゃいませー。」 「ありがとうございましたっ!」 学園中ににぎやかな声が溢れていた。 今日は、我が聖学園の文化祭である。 「あっ、先生。俺らのクラスに寄ってって!!」 「あぁ、また後で来るよ。」 他クラスの誘いをやんわり断りながら、アスランは自分のクラスへと向かった。 「いらっしゃいませ〜ザラ先生。」 1組の前に着くと、元気な声で挨拶された。 中は、けっこう埋まっていてなかなか順調にいっているようだ。 順調みたいだな、と少し声をかけながらクラス内を見渡していると、 ちょうど空いていた窓際の席へ案内された。 「はい、先生。メニューです。何にいたしましょうか?」 タイミングよく出されたお冷とメニュー。 それを見ながら、アスランは我がクラスながら上出来だと思った。 「じゃ、コーヒーを一つ。ホットで。」 「かしこまりました。少々お待ち下さい。」 接客態度にも文句がなさそうだ。 さすがに、この辺りはクラス委員であるレイの力といったところだろう。 シンではなかなかここまではできていなかったはずだ。 (文化祭前日まで、何かと接客態度についてうるさく言ってたからな。) 準備風景を思い出しながらこの店内を見ると少し笑えた。 野球部やサッカー部のごつい男どもが女装をしているだけでも笑えるところだが、 そのごつい体を小さくしながら接客をしているのを見ていると、とても微笑ましかった。 アスランも自然と笑みがこぼれる。 「お待たせしました。」 少しそんな風景を見ながら和んでいると、声とともにコーヒーが差し出された。 アスランは、ありがとう。と、コーヒーを受け取ると、それにゆっくり口をつけた。 一口飲んでカップをおく。 だが、隣にはまだクラスの生徒がいた。 何か聞きたそうに、アスランとコーヒーとを交互に見ていた。 アスランは、それに気づいて、おいしいよ。と、 一言伝えると、生徒は嬉しそうに笑って、裏へと消えていった。 温かい陽射しがとても気持ちがいい。 この窓際の席には、温かい太陽の光が降り注いでいた。 季節はもう梅雨に入ろうとしている。 今日も雨天が心配されていたが、無事晴天に恵まれ開催することができた。 (もうそんな季節なんだなぁ・・・) 晴れ渡る空を見上げながら、アスランはふとそんなことを考えていた。 雨は、アスランとイザークに繋がりを持たせてくれたもの。 それと同時に、アスランに辛く切ない想いも与えてくれた。 この季節が来る度に、アスランは・・・。 「隣、空いてるか?」 アスランが物思いに耽っていると、上から聞きなれた声がした。 俺も、ホットコーヒーで。と、相手はアスランを気にすることもなく注文していた。 アスランはそんなイザークを不思議そうに見つめていた。 「なかなか順調そうだな。」 「まぁな。みんな頑張ってる。」 空いていたアスランの前の席に座ると、イザークは店内を見渡しながらいった。 ごつい男たちに苦笑しながらも、アスランと同じように生徒を見ている。 「お待たせしました。」 そうしている間に、コーヒーが出来上がったみたいでそっと差し出された。 イザークは受け取ると一口飲んで、うまい。といって、軽く微笑んだ。 先程と同じようにイザークの言葉を待っていた生徒は、 イザークの言葉に安心するように微笑んで、また裏へと戻っていた。 「さっきもあんな風に、俺の感想を待ってたんだ。可愛らしいもんだろ?」 「ほんとに。」 そんな風に他愛もない話をしながら、二人はこの雰囲気を楽しんでいた。 文化祭ならではの、雰囲気がそこにはあった。 「ところで。さっき、何を考えていたんだ?」 アスランが店内を見渡していると、突然、イザークが尋ねた。 窓の外を見ながら、物思いに耽っていたところをしっかり見られていたのだ。 「・・・いや、もう梅雨なんだなぁって。」 アスランは、その言葉にドキリとしながらも、表情には出さずに答えた。 何を考えていたかなど、イザークにいえるはずもなかった。 「・・もうそんな季節か。」 イザークは、アスランの様子に気付かなかったようだ。 窓から見える青空を見ながら、独り言のように呟いた。 互いに、心で思い描いている人物は一致していただろう。 ただ、何も言わず、空を眺めていた。 アスランはゆっくりと視線を空からイザークの手元にうつす。 コーヒーカップをもつ細くて長い指に、一際目立つ銀色のものを確認するために。 (やっぱり、5年やそこらじゃ外せないか・・・) イザークは結婚しているわけではなかった。 だが、左手の薬指には学生時代から変わらず、シルバーのリングがはめられていた。 今はもう亡き、大切な人への想いとして。 「もう少しだな。」 「そうだな。来週末になるな。」 「あれから、5年か・・・。」 「ああ、もう5年だ。」 彼女が――リリィが亡くなって、今年でもう5年が経とうとしていた。 アスランの大切な先輩であり、アスランが一生頑張ったとしても、勝つことのできない人物。 イザークの愛して止まなかった恋人であるリリィが亡くなってから来週で5年になる。 「じゃ、俺は先に行くな。さっき誘われてたところも回らないと行けないし。」 アスランは、その場の空気に耐えられなくなって席を立つ。 リリィを想うときのイザークの瞳の優しさに胸が痛くなった。 イザークは、モテる男は辛いな。と笑いながらアスランを見送った。 アスランは、そのまま他のクラスによることもなく職員室へと戻った。 ちょうど皆、出払っていて職員室は静かなものだった。 文化祭中は本部も移動しているので、当分誰も戻ってこないだろう。 自分の席に座ると静かに溜め息をつき、カレンダーに薄っすら印のついたその日を見つめていた。 「えっと、職員室に誰か先生いたかなぁ〜?」 クラスのビラがなくなりそうだったので、増刷しにシンは先生を探しに来ていた。 「絶対、上手く利用されてるよなぁ。」 『お前、実行委員だろ?』という言葉を言われると、せざるを得ないのが辛い。 実行委員はこういう面倒なことばっかり押し付けられる。 面倒だと思いながらも、最優秀クラスに選ばれるためにも頑張るしかないんだと、 シンは自分に言い聞かせながら雑用をこなしていた。 ブツブツ文句をいいながら職員室の前を歩いていると、扉の窓から人影が見えた。 「おっ、ラッキーじゃん。」 シンは誰かを確認するために窓からそっと覗いてみた。 そこにいたのは、シンの憧れて止まないアスランだった。 (ますますラッキーじゃん。でも、何してんだろう・・・) 手に何か紙のようなものをもっている。 写真のようにも見えた。 それを眺めながら、アスランは何か考えているようだった。 (どうしたんだろ・・・) 雰囲気的に入るわけにもいかず、シンはそっとそこから眺めていた。 何か、アスランはそれに向かって喋りかけているようだった。 そして、語尾のほうだけ微かにシンは聞き取ることができた。 「・・・好きだ。」 誰に対してのものかは、言葉の語尾だけでは特定できない。 ただ、その声はとても辛そうな響きであった。 アスランは、その言葉の後すぐにそれを机の中にしまうと、 シンがいるほうに向かって歩いてきた。 気づかれて慌ててというより、ここから出て行くようだ。 (・・・ヤバッ) シンは、急いで身を隠した。 どうして隠れているかはわからないが、タイミング的にシンは隠れてしまった。 アスランはそんなシンに気づくことなくそのまま階段を上っていった。 結局、シンはビラを刷ってもらうことができず、職員室の前にただ立っていた。 一応、確認でシンは職員室の中に入るが、やはり誰もいない。 先程の行動が、言葉が気になったシンは、静かにアスランの席へと向かった。 だが、机の上には何も置いていなかった。 (さっき何見てたんだろ・・・) 何を見てあんな声を出していたのか、シンは気になってしかたなかった。 そんなことしてはダメだと、頭の中で言い聞かせていたが、手は勝手に机の引出しへと伸びていた。 さっき、何かをしまっていた引出しへと。 「・・・・」 開けると、そこには一枚の写真があった。 「・・・ぇ」 シンは、その写真に驚きを隠せなかった。 (たしか、あの先生って恋人か奥さんいるんだよな? だって、左手の薬指に指輪はめてるし。 てか、先生ってもしかしてこの写真に向かって何か言ってたのか? でも、これくらいしかないよな・・・。ってことは、先生って・・・。) 「ジュール先生のことが・・・」 「・・・好きなのか?」 その写真には、イザークとアスランが写っていた。 とても、楽しそうに微笑んだ二人が写っていた。 アスランはそれにむかってあの言葉を紡いでいたのだった。 『・・・好きだ』 シンは、急いでその写真を元の位置に戻すと職員室を出た。 ただ、その場所にいるのが辛かった。 一刻も早くそこから離れたかった。 シンは、見てはいけないモノをみてしまったのだった。 アスランの心の中に土足で踏み込んでいくように。 ものすごく後悔した。 同時にとても辛かった。 「ごめんなさい。」 シンはそう一言いうと、階段を駆け登った。 |