PartV 03.





――たぶん、君と大して変わらないよ...



そう、俺は君と何も変わらない。

変われないんだ...





音楽室を出たあと、紅く染まる空を眺めながら、
アスランは想いを馳せていた。
遠く離れた場所に居るであろう、彼の人に。










 + + + 










月日が流れるのは早い。
学生時代何度そう思ったのだろう。

つい先日まで、体育祭だ!と、盛りあがっていた雰囲気は
どこへ行ってしまったのか。
学園は、木葉が紅く色付くように静かに時を刻んでいた。
もう11月も半分が過ぎようとしていた。


体育祭の結果だが、アスランのクラスは予想通りよい結果を残した。
その証としてクラスには二枚目の賞状が飾られている。





「アスラン。」

朝の職員会議が始まる前に、イザークはアスランに声をかけた。
アスランが振り返り、返事をしようとした時、他の先生から呼ばれてしまい、
アスランは「悪い。」とイザークに申し訳なさそうな顔をすると、
そのままイザークの前から去っていった。

「あいつ、何処に行っているんだ・・?」

昼は昼でお互いに忙しく、会話などする時間は殆どなかった。
授業中など論外だ。

今日は、お互いの担当教科が上手く時間割に組み込まれていて。
職員室に戻っても、すれ違う程度しか時間がなかった。

「・・・ちっ。」

普段のイザークならこの忙しさに対して、然程気にしなかっただろう。
だが、今日は別だった。

理由は、放課後に急遽入った臨時の全校集会である。
内容はまだ知らされていなく、校長と教頭とイザークしか知らない。
教師たちも、臨時の全校集会という程度しか知らなかった。
朝の時点では連絡ができなかったのだ。

イザークはどうにかしてアスランに伝えようと必死だった。
今朝、休み中に行ったアメリカの楽団から結果が返ってきたのだ。
ポストに入っていたエアメール。
それには、宛名とともに、見覚えのあるディックの名前が書かれていた。

手紙には、採用するという内容の文章とともに、
出来るだけ早くこっちに来て欲しいということが書かれていた。
つまり、今月末にはこちらへ、アメリカへ発てという内容だった。

このことをイザークはディアッカにはすぐに電話で連絡したのだった。
さすがに、時間をとって会うなど無理であろうから、連絡だけは入れたのだ。
アスランのことは直接会うことだし、まさかこんなに忙しくなるとも考えていなかった。
話しかけるがゆっくり面と向かって話す時間はほとんどなく、
結局、何も話すことができないまま、今に至る。


今、イザークは舞台の上に立っていた。


何があったんだろうとういう生徒の眼差しを一身に浴びながら、
イザークは話を切り出した。


「私はこの11月をもってこの学校を去ることになりました。」

校長からは「イザーク先生から急なお話があります。」としか言われていない。
生徒も教師も、イザークが発したあまりにも唐突で、簡潔な言葉に驚きを隠せなかった。
それは、アスランも同様であった。
ただ、その理由を聞くべく、アスランはじっと舞台に立つイザークの姿を見つめていた。

「皆さんにはお話していませんでしたが、夏休み中にあるアメリカの楽団の方に会いにいきました。
そこで、いわゆる採用試験というものを受けてきました。」

意味がわからない。というのが、率直な感想だろう。
何故、イザークが採用試験など受けているのか。
それがまた、何故アメリカなのか。

「結果は今朝届き、文章には合格ということが書かれていました。
それと同時に、至急アメリカのほうへ来てくれという内容もありました。
そのため、今月いっぱいという慌しい退職となってしまったのです。」

「おめでとう。」や「すごい。」という言葉が聞こえてくる中、
イザークは軽く微笑みながら、続けた。

「私の夢であり、目標であった海外で演奏することが今現実となることを嬉しく思うと同時に、
皆さんとこのような別れ方をすることがとても残念です。
今まで本当にありがとうございました。」

そう言って、イザークは舞台を降りた。


誰もがその言葉に喜びと寂しさを覚えた。
泣き出す生徒こそいなかったが、何があったのか受け入れられない生徒はいたようだった。
イザークに世話になっている者ほどその驚きと悲しみは大きかっただろう。



アスランは、複雑な心境だった。
イザークが採用されたことは素直に嬉しいことだ。
ただ、あまりにも急な別れに心がついていきそうにもなかった。
もう少し、時間が持てると思っていたのだ。
その間に自分の気持ちとも折り合いをつければ良いと考えていた。

イザークが、リリィの死を受け入れきれていないのと同様に
アスランもイザークへの想いにけじめをつけられずにいる。

何よりも、このような形でイザークのことを聞いたことが
アスランにとっては少しショックだった。
直接話して貰えたら、もう少し違ったのかもしれない。
アスランは、イザークが降りてしまった舞台を見つめながら頭の片隅で考えていた。

そうしているとアスランは戻ってきたイザークに声をかけられた。

「すまなかった。」
「いや、おめでとう。よかったな。」
「あぁ、ありがとう。本当ならお前には先に話しておくつもりだった。
だが、お互い忙しくて話す機会がなかった。」
「そんなこと気にしなくていいよ。そう思ってくれてるだけで十分だ。」
「悪いな。」

暫くして校長の声が響いた。

「驚いたことと思いますが、ジュール先生の夢への大きな一歩に盛大な拍手を贈りましょう。」

イザークは軽く頭を下げて、その拍手に包まれた。










 + + +










「先生、アメリカに行くんだな。」
「そうみたいだな。」

その日の帰り道、シンとレイは臨時集会のことを話していた。

「先生、驚いてたな。」
「聞いてなかったみたいだな、直接。」
「うん。・・先生、今どう思ってんだろ?」
「さあな。」

誰もいない歩道を二人でゆっくり歩いていた。

「俺、どうするべきなのかな・・・」

敵がいなくなったことを喜ぶべきなのか、それとも・・・。

シンはイザークの言葉を聞きながら一瞬悲しい表情を見せたアスランを思うと
素直に喜べないでいた。
イザークがこの学校からいなくなって一番寂しいのはアスランなのだということは、
誰に聞かなくてもよくわかっていた。



呟いた言葉は、枯葉を踏む音に吸いこまれて消えた。






 

 

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