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PartV 05. 1週間なんていう時間は、あっという間に過ぎていき、 イザークが日本を発つまであと1週間となった。 誰もがそのことを気にしながらも、今、自分のしなければならないことに追われていた。 「むかつく・・・。」 いきなり、なんの前触れもなく吐き出されたその言葉に 周りの友人たちも一瞬シンに目を向けた。 「なんかあったのか?」 「別に・・・。」 完全にふてくされているシンは、相手への返事も適当にすませ、机に突っ伏してしまった。 明らかに、機嫌が悪い。 そう誰もが思ってしまうくらい、シンの不機嫌さは態度にも表れていた。 皆は、無理して彼に近づこうとせず、遠巻きに彼の様子を見ている。 たぶん、今の状況を打開できるのはせいぜいレイぐらいだろうことは、皆が承知していた。 「シン、どうしたんだ?」 「・・ん?・・レイ?」 「みんな、ひいてるぞ。何かあったのか?」 何かあったわけではなかった。 ただ、シンは苛ついて仕方なかった。 先程教室に入ろうとしたとき、アスランとイザークが話しているのをシンは見かけていた。 普段のシンなら、そんな二人を見てもむかつくなんて思うことはなかっただろう。 どちらかというと切なくなってしまうのが常だった。 あぁ、あの人は自分ではなく、彼を想っているんだと、 現実を突きつけられているような気がしてしかたなかった。 だが、今は違うようだった。 シンはアスランの煮え切らない態度に苛立ちを感じずにはいられなかった。 最初は、寂しいんだろうと。 そう考えることで、シンは自分なりにアスランのことを理解しようとしていた。 愛する人が自分の傍から離れていくのだから落ち込むことも当たり前だと。 実際に、シン自身がそういう立場に置かれたとしても、 同じ様になると考えたからだ。 しかし、既にイザークが渡米するまで残り1週間となっていた。 「少しは考える時間があったはずだろ?」 このままの状態でいいと、アスランも思っているはずなどないと、 シンは思っていた。 「俺だったら。絶対に・・・。」 自分だったら、絶対に気持ちを伝える。と、 シンは、そう言おうとして、続きを言うのを止めた。 そして、中途半端に晴れた空を見上げた。 自分なら、そのまま大切な人を見送ることなどしない。 このまま別れてしまうなんて、寂しすぎるし、辛すぎる。 例えば、すぐに、会いたいときに会いにいける距離ならば、 ここまで考えることもなかっただろう。 だが、イザークが行こうとしている土地は、ここからはあまりに遠すぎる。 飛行機で数時間でいけるだろうと、そう言ってしまえば簡単だが、 そうも行かないのが現実だ。 会いたいからといって、飛行機に乗っていけるほど、 恵まれた環境にいるわけではないのだ。 あの人もこのことは十分にわかっているはずだ。 それでも、行動を起こそうとしないアスランにシンは苛立つ気持ちを抑えられなかった。 「あぁー、苛々する。」 先ほども、アスランとイザークが話している姿をシンは後ろから眺めていた。 そして、話し終えたあと、自分から遠ざかっていく背中を見ながらアスランが 何か言おうとしてため息を付いている姿もしっかりと見ていたのだ。 そんな行動を続けているアスランをシンはずっと見ていた。 ずっと、見続けているのだ。 「別に、応援なんてしないけどさ。」 シンはレイに、今日までのことをざっと話した。 「なら、お前はどうするんだ?」 「えっ?俺?」 アスランの話をしていたはずなのに、いきなり自分に話が振られてシンは少し驚いたようだった。 「そうだ。お前はどうするんだ?このまま、その先生の行動を見続けているのか?」 「どういう意味?」 どうやら、シンはレイのいうことを汲み取れていないらしい。 「もし、お前が思っているような行動を先生がとったら、二人が結ばれるかもしれないだろ?」 「えっ?」 「お前、何もせずまま、失恋するのか?」 レイがもう一度丁寧に説明すると、シンはやっとその意味を理解したようだった。 そして、意味がわかった途端、一瞬固まってしまった。 確かに、そうなるかもしれない。 だが、イザークには恋人か奥さんがいるのではないか。 左手の薬指にはめているシルバーリングが何よりの証拠ではないか。 まして、二人は男同士なのだ。 自分が男で男であるアスランを好きになってしまったことなど放っておいて、 シンはレイに返す言葉を必死に探していた。 「だって、先生には・・。」 「"絶対"とはいいきれないぞ。あの二人、学生時代からの付き合いなんだろ?」 何が起こるかわからない。とレイは静かにそういった。 何もせずまま、失恋するということだけは、シンとしては絶対に避けたかった。 というか、ありえないのだ。 先程まで自分がアスランに対して、むかつくなど批判しまくっていた行動を 自分自身がとるなんていうことは、シンには考えられなかった。 「好きなんだろ?」 このまま、見続けているのか。 それとも、今、自分の想いを伝えるのか。 その日、シンは家に帰ってからもずっとそのことを考えていた。 ベッドに寝転がって、天井を見上げながら、レイが言ったことを復唱する。 ――その先生の行動を見続けているのか? そんなこと耐えられない。 ――お前、何もせずまま、失恋するのか? それだけは絶対に嫌だ。 ――何が起こるかわからない。 わかってるけど・・。 ――好きなんだろ? 「当たり前だ。」 答えなんて、最初から決まっていたのだ。 ただ、その答えからシンは目を逸らそうとしていたのかもしれない。 見つめ続ける想い人は自分ではなく、他の者を見ていた。 自分には望みはないのだと、頭のどこかで考えていたのだろう。 だから、シンはどうしてもその一歩を踏み出すことができなかったのだ。 もしかしたら、この苛つきもアスランの行動のどこかに自分を感じていた所為なのかもしれない。 シンは、ゆっくりと目を閉じた。 明日、一番にレイに伝えよう。 + + + 翌日。 「俺さ、先生に告白しようと思う。」 空は、綺麗に晴れ渡っていた。 |