| PartX 06. 「ここまで、長かったな・・・。」 アスランの想いに気付き、共に想いを共有し合い、 いつの間にか、多くの月日が流れてしまっていた。 「なぁ、リリィ。」 それも、今日で終わりを告げる。 アスランにどんな結果が訪れるか、ディアッカにもわからない。 だが、見上げる空は、雨に濡れた大地に陽の光を届けようとしてくれている。 「空が綺麗だ。」 眩しくて、ディアッカは瞳を閉じた。 ディアッカは、偶然、リリィの墓を訪れていた。 イザークが日本を発つのが、今日だったということもあるかもしれない。 ただ、なんとなくこの場所を訪れたくなったのだ。 「あいつ、行ったって。」 アスランから連絡を受けたのは、ちょうどこの場所へと向かっている最中だった。 携帯の履歴をもう一度見直して、ディアッカは目の前に居るであろう彼女に向かって笑いかける。 「どうなるんだろうな。」 アスランがイザークを好きだということには、すぐに気が付いた。 たぶん、自分が一番最初にその想いに気付いたのだろう。 だが、ディアッカにとって、これほど分かり易いものもなかった。 目の前にもう一人自分がいるのだ。 間違えるはずがないだろう。 視線の先は違えど、アスランがイザークを見つめる瞳は、ディアッカのそれと重なった。 自分で自分の瞳を見ることは出来ないが、 見ることが出来たらこんな感じなのだろう、と容易に想像できた。 ディアッカがアスランの気持ちに気付いてから、 二人がそれぞれの想いを共有し合うまで、然程時間はかからなかった。 二人でいる時間は、イザークやリリィたちと比べて、格段に多かったのだ。 逆に言うと、リリィとイザークが二人でいる時間も多いということだが、 恋人、婚約者、それだけで理由は十分だろう。 ディアッカとアスランは、イザークとリリィの帰りを待ちながら、 幾度となく同じ話をして、笑って、溜め息をついて、慰め合いながら、時々涙した。 その間、ディアッカはずっとアスランの背中を押していた。 だが、アスランは一度も行動を起こそうとしたことはなかった。 それなのに、今、彼は向かっているのだ、イザークの元へ。 「いったい、何があったんだ・・・?」 携帯越しに聞こえた声は、とてもすっきりとした声だった。 悩んでいた頃の弱さを感じる声ではなく、むしろ強さを感じるほどに。 迷いはもうないのだろう。 「まっ、いいことだよな。うん。」 自分がそのきっかけになることができなかったことは、残念にも思えるが、 それでも、アスランが一歩前に進んだことは、友人として素直に嬉しかった。 太陽に煌く金色の髪が風に靡く。 ディアッカは陽の光が眩しい空を仰ぎながら、呟いた。 「でもさ。俺だけは、片想いのままでも・・・いいよな?」 たとえ、一生叶うことのない恋だとしても。 こうして、周りの世話を焼きながら、ここには居ない彼の人に片想いをしていることに、 ディアッカは幸せを感じていた。 少なくとも、彼女を超える女性が現れるまで、今のディアッカのスタンスは変わらないだろう。 それに・・・、 「ちゃんと約束は果たしたぜ。」 死ぬ間際、リリィはディアッカに伝えていたことがあった。 それは、アスランにもイザークにも伝えられていないこと。 ディアッカのみがその言葉を聞いていた。 『イザークって、ありえないくらい真面目だよね。それに純粋で誠実で不器用で・・・。 たぶん、私が死んだ後も、彼は私の婚約者であり続けると思う。 それはとても幸せなことだけど、彼を私に縛り付けておくことなんてできない。 私が死んだら彼にも新しい恋をして欲しい。私ではない誰かを愛して欲しい。』 残されていくものにとって、その言葉は勝手な我が儘に聞こえるのかもしれない。 だが、その言葉を音にするまでの置いていくものの葛藤を、残されていくものもまた知らないのだ。 まっ、すぐにとは言わないけどね。と笑った彼女の笑顔は、今にも壊れてしまいそうだった。 『ディアッカお願いね。あなたなら、彼のことよく分かってるはずだから。 彼のことを助けて欲しい。』 すべてを悟ったようなその声に、ディアッカは何も言い返すことが出来ず、 ただ少しふざけて、場の雰囲気を変えることしか出来なかった。 『わかったよ。本当にイザークのことが好きなんだな。』 『まぁね。』 『あいつにはもったいないぜ。』 『あら、あなたにももったいないと思うけど?』 『言えてるな。』 お互いに、いつもと変わらない笑い声を病室に響かせた。 そのとき、口にすることは出来なかったが、 リリィはディアッカの想いにも気付いていたのかもしれない。 知った上で、自分の彼氏を頼む、というのだから、女とはつくづく賢いものだと思う。 いくら恋敵とはいえ、相手は親友であり、頼む、と言ってきたのは、愛するものだ。 聞き入れずには、いられないだろう。 結局のところ、ディアッカ自身、自分が何をしたのかはよくわからないが、 イザークは、新しい道へと進むことを決め、 アスランも、自分の気持ちと本当の意味で向き合うことを決めた。 ディアッカが、一番きついところを引き受けた感は否めないが。 それでも、5年以上も前の約束だが。 「ハッピーエンドってやつだよな?」 ディアッカは空に向かって笑いかけた。 ――― そうね。 空で笑っている彼女が見えた気がした。 |